第121回 コロナ禍ウシ年の睡眠“ニューノーマル”
妊娠、出産した牛はその後10カ月くらい毎日乳がたくさん出る、それが泌乳期。泌乳期の初期に睡眠時間が一番短いらしい。乳を作るために草を大量に食べなくてはならないので、反芻と休憩で横になっている時間が必要なのだけれど、決してダラダラ眠っているのではないんだね。
お疲れ様です!
泌乳期の間に徐々に睡眠時間が長くなっていきます。泌乳期が終わったら、次の分娩に備えて2〜3カ月搾乳を止めて休ませる、これが乾乳期。この期間、特に妊娠後期に睡眠時間が一番長くなるみたい。そして出産後は再び短時間睡眠で乳作りに没頭します。
このように牛の睡眠時間は総じて短いんです。「食べてすぐ寝ると牛になる」というのは牛に失礼なので、「ウソ」と認定しておきましょう。ちなみに、牛にも夢を見やすいレム睡眠がしっかりあります。干支の今年はどんな初夢を見たんだろうね。
牛界のコロナ騒動とも言える狂牛病問題で大騒ぎになった年もありました。牛くんにとっても良い年でありますように。
それで思い出した。新型コロナウイルス感染症の話に戻るけど、昨年は自粛生活だけではなく、リモートワークやリモート講義、遠隔診療などが広がり、私たちのライフスタイルにも大きな変化が生じた1年だったね。
睡眠習慣にも変化があったと言われているんだよ。例えば、ロックダウン(都市封鎖)や自粛生活が人々の睡眠にどのような影響を及ぼしたのか、日本も含む40カ国、1万人以上を対象にオンライン調査が行われたんだけど、コロナ感染拡大前に比べて、睡眠のタイミング(寝つき時刻と覚醒時刻の中点)は平日には50分、休日には22分遅くなったそうです。つまりかなり夜型生活になったんだね。
リモートワークで通勤が無くなったので、寝坊できるようになった人も多くいたんでしょうね。
そうだね。出社や登校などの社会的に決められたスケジュールが無くなると、一般的に人の生体リズムは遅れることが知られているので、夜型生活に傾くのは自然なことです。
寝坊ができれば寝不足も解消できたんじゃない?
先の調査によれば睡眠時間は平日に平均して30分近く長くなったそうだよ。特に都市部では通勤時間が長くて、睡眠不足の大きな原因になっているから(第85回「一目瞭然! 通勤時間と睡眠時間を比べて分かること」)、リモートワークの効果はもっと大きかったのではないだろうか。
休日の睡眠時間は逆に10分ほど短くなったそうですね。ナゼなんでしょう?
その理由までは分からないけど、平日に睡眠不足を溜め込まなければ、休日の寝だめをする必要も無いし、家族サービスなんかもできるんじゃないかな。
全てが悪いことばかりじゃないってことかな?
新型コロナウイルス感染症もいずれは収束するだろうけれど、ポストコロナの時代になってもリモートワークの流れは止まらないんじゃないかな。在宅勤務については「生活リズムが崩れる」「仕事とプライベートの区切りが曖昧になる」など負の面を強調する人もいるけれど、日本の都市部の通勤状況の過酷さや、体質的に夜型傾向が強いために社会時刻に合わせるのが大変な人の存在を考えるとプラスの面が大きいのではないだろうか、と睡眠医学の観点からは考えます。
嘆いてばかりいても仕方が無い。年が明けたのだし、心機一転前向きに頑張りましょう!
はーい!!
つづく
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(イラスト:三島由美子)
三島和夫(みしま かずお)
1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。
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