第99回 大丈夫? 命を預ける医師の睡眠不足

 彼らが医師を対象として行った調査によれば、抑うつ度やストレスが最も高かったのは「勤務時間80時間以上、睡眠時間6時間未満」の医師、次いで「勤務時間80時間未満、睡眠時間6時間未満」の医師だったとのこと。睡眠時間が短いことがポイントだね。「勤務時間80時間以上、睡眠時間6時間以上」の医師は抑うつ度やストレス度はさらに低く、「勤務時間80時間未満、睡眠時間6時間以上」の健康的な働き方ができている医師と差がなかったというんだ。

 医師が疲弊する要因として勤務時間の長さよりも睡眠時間が6時間未満であることの方が影響が大きいということですね。

 横断調査だから断定は出来ないけど、可能性は大いにあるだろうね。睡眠時間と抑うつ・ストレスとの因果関係をはっきりさせるには、医師を無作為に2群に分けて十分睡眠を取らせた場合と、短時間睡眠しか取らせない場合とで精神状態を比較するいわゆる「前向き研究(コホート研究)」が必要だけど、そこまで行った研究はないようだね。いずれにしても、6時間というのは調査のために暫定的に設けた数値で、私から見ればそれでも短すぎだと思うけど。

 「睡眠時間6時間未満」は本当に原因なのかな? すでに不眠症とかうつ状態になっているために睡眠時間が短いんじゃないの?

 お! トリ君、勉強の効果が出ているね。確かに睡眠不足で抑うつやストレス状態になったのではなく、うつ病や不眠症の結果として短時間睡眠になっている可能性もあります。この調査結果の因果関係はさておき、医師が健康で持続可能な働き方をするには睡眠や休養がとても大事であることは間違いありません。医師のバーンアウト(燃え尽き)も問題になっています。うつ状態はその最大のリスクです。

 睡眠と休養が十分に取れていないと医療事故も心配ですね。

 そうなんだよ。第9回「眠気に打ち克つ力 その3 ―知らぬ間に膨れあがる寝不足ローンにご用心」でも詳しく解説したけど、短時間睡眠の悪影響はドンドン積み重なります。患者さんのためを思って長時間勤務をすることがむしろ重大な医療ミスにつながる懸念があります。実際、医師の勤務時間を短縮した結果、医療の質は低下せず、むしろ医療事故や診断ミスが減ったというレポートもあるんだよ。

 先生の医局のスタッフは大丈夫なの?

 うーん、正直に言うと若手は仕事が忙しいほかに当直日数も多くて心配です。オーバーワークにならないよう医局の行事はできるだけ勤務時間内に終えるように工夫しているんだけど、勉強会とか講演会などはどうしても夕方過ぎになってしまうんだよね。医師の生涯教育や研究活動の時間を勤務時間にカウントするかは裁量労働性とも関連して判断が難しいしね。でも、みんな生き生きと仕事をしてくれています。

 先生も睡眠不足気味のようだけど燃え尽きないように気をつけてください。

 今年は亥年だけど、猪突猛進して途中でバタッと倒れないように注意します(汗)

 ということで本年もヒツジ君やトリ君と一緒に睡眠の不思議や大切さを紹介していきますので、皆さんお付き合いください。

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つづく

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三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。