第110回 「睡眠は短くても深ければOK」のウソ

 でしょ。健康な人の場合、深い睡眠は若い頃に多くて、年齢とともに徐々に減ってくる。だから深い睡眠が多い方が睡眠の質が高いのだろうと漠然とイメージしがちだけれど、これはあくまでも十分な睡眠時間をとっている時の話しです。かつ深い睡眠の量は個人差が大きい。若くて健康でも体質的に深い睡眠が少なく、それでも睡眠に満足感を得ている人は少なからずいます。

 先生の以前のコラムで、就寝の2時間ほど前に入浴すると深い睡眠が増えて、熟睡感も高まると書いてありましたよね。

 お、第6回「お風呂で快眠できるワケ」の回だね。もう5年以上前に書いたコラムなのに、よく思い出したね。ただ読み返してもらえば分かるけど、入浴後に深い睡眠が増加するのは、加熱された脳を効率的にクールダウンするために強制的に誘導されるからなんだ。つまり、やむを得ず生じた生体反応と言えるわけで、睡眠の質が高まったと表現するのは実は正しくない。

 深い睡眠と睡眠の質が直結しない他の証拠として、入浴とは逆に深い睡眠が減ってもぐっすり感が得られることもあるんだよ。どんな場合か想像つく?

 加熱の逆で、脳を冷やす?

 おー、トリ君、冴えてるね! そうなんだ。例えば睡眠薬の一部は体からの放熱を促して脳の温度を下げてしまいます。そうするとそれ以上脳をクールダウンする必要がなくなるので深い睡眠が減ってしまう。でも不眠症の人では睡眠薬を服用するとぐっすり感が高まるのだから不思議だよね。

 不眠症の話が出たので、もう一つダメ押しで、第12回「不眠症の本質は睡眠時間の誤認である」でも紹介した「睡眠状態誤認」を挙げてみよう。慢性不眠症の患者さんの中には脳波上はよく寝ているのに、睡眠の質をひどく悪く感じていることがしばしばあるんだ。これを睡眠状態誤認と呼ぶのだけれど、脳波の数値と主観的睡眠感が解離しているもっとも典型的な例だね。

 ??? 混乱してきました。結局、睡眠の質のバロメーターって何なんですか?

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