第30回 クマムシ VS. 線虫

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 以前(第19回)も述べたように、肉食性クマムシはワムシだけでなく、センチュウも食べる。野外から採取したコケを水にしばらく浸してから顕微鏡で観察すると、リヒテルシウスチョウメイムシのような肉食性クマムシが、センチュウの体の側面に口針を突き刺して体液を吸っている姿を、たまに見る。センチュウはその細長い体をばたばたさせるのだが、これらのクマムシはとてつもないキス力により、絶対にセンチュウを離さない。

 同じ肉食性クマムシでも、オニクマムシは、基本的にセンチュウを食べないとされる。いや、食べたくても食べられない、と言ったほうが正確だろう。オニクマムシはクマムシ界の猛獣とはいえ、チョウメイムシなどに比べると、口針を突き刺す力が弱いようだ。センチュウの体表はワムシのそれに比べると固いようで、オニクマムシはセンチュウの体表に口針を突き刺すことができない。

 しかし、ついこの前、野外から採取したオニクマムシがセンチュウを食べている姿を目撃した。

 オニクマムシはセンチュウのお尻の先端から丸飲みにするようにして、食べていた。センチュウの側面からは食べることができないが、細長いセンチュウの先端からであれば、食べることが可能なのだ。オニクマムシは獲物を口の中に引きずり込む力はつよい。このオニクマムシは、口の近くにたまたまセンチュウのお尻が接近したため、運良く噛み付いて餅飲みの要領で口の中に引きずりこむことに成功したのだろう。

 発見から2日後には、完全にセンチュウが飲み込まれていた。クマムシの研究をはじめて14年が経っても、このように不意に新しい発見があったりする。これだから、クマムシはやめられない。

つづく

『クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して』
著者:堀川大樹 (東海大学出版部)
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堀川大樹

堀川大樹(ほりかわ だいき)

1978年、東京都生まれ。地球環境科学博士。慶応義塾大学SFC研究所上席研究員。2001年からクマムシの研究を始める。これまでにヨコヅナクマムシの飼育系を確立し、同生物の極限環境耐性能力を明らかにしてきた。2008年から2010年まで、NASAエイムズ研究センターおよびNASA宇宙生物学研究所にてヨコヅナクマムシを用いた宇宙生物学研究を実施。2011年から2014年まで博士研究員としてパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所ユニット1001に所属。『クマムシ博士の「最強生物」学講座――私が愛した生きものたち』(新潮社)、『クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して』(東海大学出版部)の著書がある。Webナショジオ「研究室に行ってみた。」の回はこちら。人気ブログ「むしブロ」および人気メルマガ「むしマガ」を運営。ツイッターアカウントは@horikawad