第25回 モグモグ・ベアーズ

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 オニクマムシはクマムシ界の猛獣と呼ばれるだけあり、顕微鏡越しに覗いたその捕食シーンは圧巻の一言である。飼育培地上の彼女らは、まるで常に獲物を探しているかのように、いつも頭を左右に振りながら歩いている。そして、たまたま口の先端にヒルガタワムシがぶつかると、口針(こうしん)という矢のような器官を口の中から出して獲物を突き刺し、口の中に引きずり込む。この間、わずか数秒。見事なハンティングぶりである。ヒルガタワムシを飲み込んだあとはさらに数秒間、立ち止まって体を丸めつつ肢をゆっくり動かすような動作をする場合も多い。このとき、オニクマムシが「モグモグ」しているようにもみえるし、「オイシイ、オイシイ」と言っているようにも見える。ふだん獰猛なオニクマムシがみせる、一瞬の可愛い系しぐさだ。

 ヒルガタワムシを1匹飲み干すと、また次の獲物を探しにいく。満腹になるまで、口にぶつかったヒルガタワムシを、次から次へと食らっていく。きちんと数えたことはないが、大人のオニクマムシが1日間で食べるヒルガタワムシの数は数10匹以上にのぼると思われる。

 さて、獰猛なハンターであるオニクマムシではあるが、どうやらターゲットとなるヒルガタワムシがどこにいるかは把握できないようだ。ヒルガタワムシが、オニクマムシの口のすぐ手前を横切っても、彼女らは襲いかかったりしないのである。あくまでも、ヒルガタワムシが口に接触した場合のみ、オニクマムシの攻撃は発動される。これは鈴木忠著『クマムシ?!』(岩波書店)でも言及されているが、オニクマムシの口に何かが接触すると、その周囲にある感覚器で、それがワムシかどうかを判別している可能性が高い。

 それにしても、オニクマムシのように、ただやみくもに歩き回りながらエサが口にぶつかるチャンスを待つやり方は、たいへん効率が悪そうに思える。野外のコケの中では、オニクマムシのエサとなるワムシなどが豊富にいるため、遠く離れた獲物を感知するようなシステムを進化させる必要がなかったのかもしれない。

 オニクマムシの捕食行動は獰猛であるが、それと同時に「目隠しパン食い競走」をしているような滑稽さも感じてしまう。

つづく

堀川大樹

堀川大樹(ほりかわ だいき)

1978年、東京都生まれ。地球環境科学博士。慶応義塾大学SFC研究所上席研究員。2001年からクマムシの研究を始める。これまでにヨコヅナクマムシの飼育系を確立し、同生物の極限環境耐性能力を明らかにしてきた。2008年から2010年まで、NASAエイムズ研究センターおよびNASA宇宙生物学研究所にてヨコヅナクマムシを用いた宇宙生物学研究を実施。2011年から2014年まで博士研究員としてパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所ユニット1001に所属。『クマムシ博士の「最強生物」学講座――私が愛した生きものたち』(新潮社)、『クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して』(東海大学出版部)の著書がある。Webナショジオ「研究室に行ってみた。」の回はこちら。人気ブログ「むしブロ」および人気メルマガ「むしマガ」を運営。ツイッターアカウントは@horikawad