すなわち、オートファゴソームはリサイクルした素材を、サーファクタントの原料としてラメラ体に届けていたわけだ。水島氏は、「オートファゴソームは、タンパク質をアミノ酸レベルまで分解することは得意だが、細胞膜などの脂質を含む成分の分解は苦手で、膜成分の食べ残しが生じやすい」と言う。「この食べ残した膜成分を有効活用する機能をラメラ体が担っているのでは」との考えだ。

 そうだとすると、オートファジーは肺や浮き袋の機能だけでなく、皮膚や神経にも関わりがあるかもしれない。皮膚や神経系の細胞などは脂質成分を多く含み、その異常が細胞の機能異常を生じ得る。水島氏によると、神経細胞などにもラメラ体は多く存在するとのこと。神経系の疾患の多くは、いまだその原因が解明されておらず、治療法も確立していないが、今後、ラメラ体もしくはオートファゴソームの研究がさらに進めば、難病とされる神経疾患の新たな治療法開発にも貢献する可能性がありそうだ。

マウスの肺の細胞。画像の黄色い部分で、オートファゴソームとラメラ体が融合している。(提供:森下英晃(東京大学大学院医学系研究科))
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人間の肺呼吸にも欠かせないサーファクタント

 ところで、サーファクタントが足りなくなると、なぜ肺や浮き袋が機能しなくなるのだろうか。肺胞や浮袋の内側は水分で覆われているため、そのままだと水の表面張力によって潰れてしまう。その表面張力を弱め、小さな袋の中に空気を保てるようにしているのがサーファクタントだ。

 魚は浮力調整のために浮き袋を使っているため、サーファクタントが不十分な場合は「浮けない魚」となる。一方で哺乳類は、浮き袋と相同の器官である肺を、酸素の取り込みと二酸化炭素の排出という呼吸に利用している。その肺でサーファクタントが不十分になると、肺胞が潰れ呼吸不全を生じ、その段階で死んでしまう。

 ヒトは胎児期、肺を一切使っていないことはご存じだろう。胎児期は胎盤を介して母体から酸素を供給してもらっているので、肺で酸素を取り込む必要はない。では、いつ肺呼吸に切り替わるかといえば、「おぎゃあ」という一声が肺呼吸の始まりだ。ということで、肺呼吸の準備は胎児の発生プロセスの中で最後(出生前1カ月ほど)、すなわち、サーファクタントの分泌も出生直前となる。

 通常の出産であれば、これは問題とならないが、早産児にとっては一大事だ。肺の機能維持に必要な物質が十分に分泌される前に誕生してしまうため、肺機能が弱くなり、新生児呼吸窮迫症候群を発症しやすい。そのため、そのような早産児に対しては、外部から人工的にサーファクタントを補充する治療が実用化されている。となると、赤ちゃんが元気に「おぎゃあ!」と産声を上げられるのはオートファジーのおかげ、でもあるわけだ。

 細胞内には、オートファジーを介さないサーファクタントの産生システムもありそうだ。しかし、廃品を用いずに一から製造するよりも、廃品を有効活用する方が効率的な場面は多い。特に、出生と同時に肺機能に切り替える、などという一大イベント時には、オートファジーをフル稼働させ、使えるものは何でも活用する戦法を体は取っているのかもしれない。

 白血球などの「はたらく細胞」も魅力的だが、細胞の中で日夜繰り広げられている、様々な細胞内小器官の働きも目が離せない。

文=ソラオ(ライター)

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