新種と判明、古代ワニに「誤飲防止弁」を発見、水辺進出の始まり【研究者本人が解説】

 手がかりは“舌骨(ぜっこつ)”と呼ばれる骨にありました。厳密には、複数種類の骨や軟骨で構成されている舌骨のうち“角鰓骨(かくさいこつ)”という骨です。舌骨は、頭骨や背骨、手足などの大きな他の骨とつながっていないので、外れやすく、化石としては多く見つかっていません。そこで、私たちは、世界中の化石標本からこの角鰓骨という舌骨を探しだし、比較、分析しました。すると、アンフィコティルス・マイルシや現代のワニたちでは、陸生の祖先に比べて、この舌骨が曲がっており、サイズも小さいことが明らかになりました。

舌骨の比較。アンフィコティルス・マイルシと現代のワニは似ている。(提供:吉田純輝)
舌骨の比較。アンフィコティルス・マイルシと現代のワニは似ている。(提供:吉田純輝)
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 しかし、なぜ曲がっているのか? 角鰓骨が曲がっている理由を突き止めるため、さらに私たちは現代のワニ(シャムワニとヨウスコウワニ)を解剖しました。その結果、角鰓骨には「鰓舌骨筋」という筋肉がついていることを発見しました。さらに、角鰓骨が曲がっていることで、この筋肉は「舌基弁」を持ち上げることに適している形であることも判明しました。

 舌基弁とは何か? ワニ類の舌の付け根には、ワニ固有の「舌基弁」という、持ち上がることで喉に水が浸入することを防ぐ仕組みがあります。現代のワニでは、鼻の通り道(鼻道)が舌の付け根より奥にある喉まで届いているので、舌の付け根が持ち上がると、口を開いても、水を誤飲することはなくなります。この仕組みは、水中で長く潜って待ち伏せるとき、獲物を襲うとき、おおいに役に立ちます。今回、私たちは鼻道の位置も研究し、現代のワニと同じように、アンフィコティルス・マイルシの鼻道が、喉まで届いていることも解明しました。

舌基弁の仕組み。(提供:吉田純輝)
舌基弁の仕組み。(提供:吉田純輝)
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 したがって、アンフィコティルス・マイルシの舌骨と鼻道を、他のワニやその祖先的グループと比べ、研究したことによって、現代のワニと同じように、後期ジュラ紀のゴニオフォリス類アンフィコティルス・マイルシも、舌基弁を持ち上げていたと考えられます。

 つまり、ワニの「舌基弁」という誤飲防止機能の起源が、今回の私たちの研究によって、アンフィコティルス・マイルシがいる、約1億5500万年前のジュラ紀まで遡れることが分かりました。泳ぎは現代のワニほど得意ではないにしても、すでに呼吸器系は水辺での生活に適応していたことを示しています。

 今回の研究で、私たちはワニ類の進化の始まりについて一端を解明できました。しかし、まだまだワニの進化・太古の生態には謎が残されています。現代の日本には野生のワニはいませんが、太古の、温暖な時代には、ワニ類やその祖先的グループが日本にもいたことが化石から分かっています。将来、私たちを含め日本やアジアでの調査研究が、ワニ類に関する未解決の進化の問題を解く鍵になればと思います。

文=吉田純輝(福島県立博物館)

吉田純輝(よしだ じゅんき)

1991年札幌生まれ、東京育ち。福島県立博物館学芸員、古生物学者。北海道大学で主竜類(ワニや恐竜、鳥などを含むグループ)をテーマに研究、博士課程を修了。2016年にはナショナル ジオグラフィック協会の支援を受け、モンゴルのジュラ紀の竜脚類恐竜について調査した。

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