新種と判明、古代ワニに「誤飲防止弁」を発見、水辺進出の始まり【研究者本人が解説】
「ワニじゃん」
そう思った方が多いのではないでしょうか。ジュラ紀は白亜紀より古い時代ですが、この化石は、平たく長い口先や上向きの目の穴があり、すでにワニのような見た目をしています。しかし、この化石はゴニオフォリス類というグループに属し、現生ワニ類とは異なります。彼らは、現生ワニが登場する前にワニの祖先から分岐した、いわばワニ類の親戚に当たります。
ゴニオフォリス類は、現生ワニ類のように水中を泳ぐことに適した、大きく動かせる背骨などは持ち合わせていません。現代のワニほど水中での運動は得意ではなく、原始的な段階だと考えられています。そのため、研究者によっては、彼らを現生ワニの「プロトタイプ(試作品)」とも呼んでおり、ワニの水辺進出の始まりを解き明かす「鍵」となるグループとして、注目しています。
写真にあるゴニオフォリス類の化石は、1993年にアメリカ、ワイオミング州で恐竜カマラサウルスが発見された際、そばから一緒に見つかりました。岩石から化石を丁寧に取り出したところ、世界でも最上級に保存状態の良いゴニオフォリス類化石が姿をあらわしました。1996年以降、群馬県立自然史博物館が収蔵、展示していましたが、詳しい分類などの研究はされていませんでした。おそらく当時は詳細な研究ができる研究者がいなかったのかもしれません。
20年以上の時が経ち、2017年、福島県立博物館を筆頭に4つの研究機関で構成される私たちのチームは、このゴニオフォリス類の化石に注目しました。
まず私たちは分類学的研究に着手しました。博物館のラベルにあるようにゴニオフォリス類に属することは間違っていなさそうでしたが、科学的根拠を経て、分析されたわけでもありませんでした。何より、すでに知られている種なのか、まだ知られていない種なのか分かっていませんでした。
私たちは、すでに知られた他のゴニオフォリス類化石(特に北米の種)と比較し、系統解析と呼ばれる手法もおこなうことで、分類に取り組みました。その結果、幅広い口先などが特徴的な、ゴニオフォリス類アンフィコティルス属の新種であることが分かりました。私たちは2021年12月、化石発見に貢献したクリフォード・マイルス氏にちなみ、「アンフィコティルス・マイルシ」という新種として英国王立協会が発行する学術誌に報告しました。
この新種の発見は,これまでの研究者の認識より、ゴニオフォリス類の多様性が高かったことを示しています。また現代のワニでも、口先は多様な形態が見られることから、ワニのプロトタイプであるゴニオフォリス類も水辺で多様化し、繁栄していたと考えられます。
さらに、世界でも最上級に保存状態の良い、新種アンフィコティルス・マイルシの化石は私たちに「ワニの水辺進出」の謎を解くための新しい手がかりを与えてくれました。
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