これがドードーの頭部(ミイラ)だ!

書籍『ドードーをめぐる堂々めぐり 正保四年に消えた絶滅鳥を追って』から紹介 第3回

生きた姿が想像できる「唯一」「特別」だらけの標本

 以上、オックスフォード標本の由来をたどり、ストリックランドらの研究内容までを見た。

 この標本の特別な点をまとめるとこんなふうだ。

・生きていた時の姿が目撃されている可能性が高い特別な標本。
・17世紀に所蔵されてからの所在が常に分かっている唯一の標本。
・軟組織が保存されている唯一の標本。
・ドードーがハト類であることを確定した特別な標本。
・『不思議の国のアリス』に登場するドードーのモデルになった特別な標本。

 というふうに「唯一」「特別」だらけになる。今、それを目の前にして興奮に打ち震えつつ、ディテールについて、気づいたことをできるだけ冷静に記述してみよう。

 まずは、ドードーの頭部。遠巻きに見てまず分かるのは、大きさだ。比較のためにノワク- ケンプの手で指差してもらったが、それと比べると写真でも実感できるだろう。クチバシは鋭く湾曲しているし、これだけ見たら、猛禽類が「極端に変形」したものと考えた昔の人を笑えない。

頭部は人の手に近いサイズ。(写真提供:川端裕人)
頭部は人の手に近いサイズ。(写真提供:川端裕人)
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 顔の右半分は皮膚がついたままだ。一見ソフトに感じられるものの、実は乾燥してカリカリだった。近づいてぎゅーっと凝視すると、残された皮膚にポツポツと毛穴があるのがはっきり見えた。一部には羽毛が残っているのだが、それらは擦り切れていてどこか哀れな雰囲気でもある。羽毛に覆われていた毛穴がたくさんある部分と、額から先の裸出部との境界もくっきり見える。

 眼球はないけれど、眼窩の窪みははっきりしている。目の周りのリング状の骨、強膜輪(きょうまくりん)が目の穴から見えていたり、耳の穴の落ち込みが分かったりするのは、とてもリアルだ。皮膚一枚残っているだけで、これだけくっきりと生きた姿が想像できるとは!

 一方、顔の左半分は、皮膚を剝がされて骨が出ている。これがものすごく白い。沼沢地に沈んでいたのを19世紀に発見された骨のように褐色に着色していないのは当然として、プラハやコペンハーゲンの標本に比べても白く、まさに白骨だ。

頭頂部には「毛穴」がはっきり見え、擦り切れた羽毛も一部残っている。(写真提供:川端裕人)
頭頂部には「毛穴」がはっきり見え、擦り切れた羽毛も一部残っている。(写真提供:川端裕人)
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 骨が露出した状態でこそ分かりやすいのは、「コペンハーゲン・スカル」との比較だが、オックスフォード標本の方が一回り大きい。研究者たちは、それは性差かもしれないと考えているそうだ。

 さらに後頭部を見ると、右半分には皮膚がついていて、左半分は骨が露出している不思議な構図になる。「絵」として味わい深い。

 夢中になって写真を撮った。許される限り近づいて目を凝らし、ちょっとかび臭さを感じたりもしつつ、頭部だけでも30分くらいは標本の前にいた。

 小休止をしてから、さらにもう一つの「小さな箱」を開いた。

 こちらからは左脚が出てきた。頭部と同様、完全な「白骨」だ。

 がっしりした脚だとこれまで書いてきたが、頭の中で想像していたよりもさらにゴツい。成人男性が手のひらを開いた状態よりも大きいのではないか。体高65センチほど、体重10キログラム以上あったとされる鳥だから、これだけのしっかりした支持機構が必要だというのは考えてみれば当然だ。生きたドードーが目の前にいたらどれほどの迫力だったろう。返す返す残念だ。残念すぎて、どうしようもない。

左脚とその皮膚。(写真提供:川端裕人)
左脚とその皮膚。(写真提供:川端裕人)
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 一方、脚の皮膚の方は剝がれていて別に置いてあった。なんというか、カリカリに焼かれた北京ダックの皮のようだった。その連想にゴメンと思いつつ……それ以上の言葉を見つけられなかった。

おわり

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年兵庫県明石市生まれ。文筆家。小説に『夏のロケット』(文春文庫)、肺炎を起こす謎の感染症に立ち向かうフィールド疫学者の活躍を描いた『エピデミック』、NHKでアニメ化された『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。ノンフィクションに『我々はなぜ我々だけなのか――アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス、科学ジャーナリスト賞・講談社科学出版賞受賞)、『「色のふしぎ」と不思議な社会――2020年代の「色覚」原論』『科学の最前線を切りひらく!』(筑摩書房)、『10代の本棚――こんな本に出会いたい』(共著、岩波ジュニア新書)など多数。Webナショジオで「「研究室」に行ってみた。」を連載中。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

ドードーをめぐる堂々めぐり 正保四年に消えた絶滅鳥を追って

江戸初期のこと。『不思議の国のアリス』や『ドラえもん』にも登場する絶滅鳥ドードーが日本に来ていた!? その後の行方を追って四国へ長崎へ。時空を超えチェコやイギリス、オランダ、ついにはモーリシャスの島で這いつくばり生命のワンダーに分け入る! 日本史と西洋史、博物学と生物学の間を行き来する驚きと発見に満ちた探究の物語。
著者:川端裕人
価格:2,970円(税込)

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