ドードーを一躍有名にした『アリス』の聖地と"as dead as the dodo"

書籍『ドードーをめぐる堂々めぐり 正保四年に消えた絶滅鳥を追って』から紹介 第1回

『不思議の国のアリス』や『ドラえもん』にも登場する絶滅鳥のドードーが、実は江戸時代に日本に来ていた! ふと目にした論文に衝撃を受けた文筆家の川端裕人氏は、ドードーの行方を探究するうち、日本はもとより欧州各国、ついにはモーリシャス島へ行ってしまう。伝説の絶滅鳥の“驚異”に満ちた新刊『ドードーをめぐる堂々めぐり 正保四年に消えた絶滅鳥を追って』(岩波書店)から、アリスの「聖地」でもある英国オックスフォードの博物館を訪れたエピソードを紹介する。(全3回)

1833年のペニーマガジンより。(画像提供:川端裕人)
1833年のペニーマガジンより。(画像提供:川端裕人)
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 欧州における17世紀のドードー渡来の後、生息地のモーリシャス島ではすみやかに絶滅してしまったため、18世紀にはその存在自体が疑われるいわば「暗黒時代」を迎えた。19世紀になって、17世紀にヨーロッパに来た個体に由来する標本(プラハのクチバシ)とコペンハーゲンの頭部(スカル)が再発見されたことをきっかけにして、ドードーが科学的な目で再検討され、さらにドードーのイメージが一気に世界に広まる「ドードーのビッグバン」が起きる。

 その舞台は、イギリスのオックスフォードだ。1848年、この大学町において、鳥類学者・地質学者のヒュー・ストリックランドらが、プラハとコペンハーゲンの標本に次ぐ第3のドードー標本を詳細に検討し、これによって、ドードーが実在した飛べないハト科の鳥だったと生物学的なリアリティを得た。

チャールズ・ドジソン(ルイス・キャロル)。(写真提供:川端裕人)
チャールズ・ドジソン(ルイス・キャロル)。(写真提供:川端裕人)
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 そして、1865年、同じくオックスフォード大学の数学教師チャールズ・ドジソン(ルイス・キャロル)が『不思議の国のアリス』を発表し、その人気とともにドードーは世界的に著名な絶滅鳥、絶滅の偶像になっていく。

 この時期に「ドードー」が、英語の日常的な語彙にも入り込んでくる。1833年のイラスト付き大衆情報誌「ペニーマガジン」では、ドードーをはじめて「人が引き起こした絶滅の事例」としてイラスト付きで紹介した。その記事では、ドードーをこんなふうに述べている。

「劣等な動物の増加を制限し、ある種族を絶滅させた人間の力は、ドードーの場合ほど、衝撃的な形で例証されたことはないだろう。これほど際立った特徴を持つ種が、その存在の事実が疑われるほど、わずか2世紀余りの間に絶滅してしまったことは、私たちを驚かせるとともに、同じ原因で今も続いている同様の変化について検討するきっかけとなるだろう」

 その直後の1839年、進化論の父チャールズ・ダーウィンは、『ビーグル号航海記』において、一度だけドードーに言及した。それはモーリシャスを訪ねた時ではなく、フォークランド諸島のワラ(フォークランドオオカミ)について、「数年以内にドードーのような絶滅動物に加わるだろう」としたものだ。「絶滅」を認識した上で、ドードーをその代表的な例として引いているのである。

 さらに時代が下って、ストリックランド論文以降の1850年代から、日常的な慣用表現として「ドードー」が使われはじめるのが、英米の新聞紙面検索で確認できる。

 例えば、1851年の「ザ・スタンダード」紙(ロンドン)で“as rare as the Dodo”が、1852年の「ザ・モーニング・ポスト」紙(ロンドン)で“as dead as the Dodo”が、1853年の「ジ・エラ」紙(ロンドン)で“as extinct as the Dodo”が使われている。すべて「死に体である」「稀である」といった意味だ。

 当初は“rare”と“extinct”が優勢だったものの、『アリス』後の1870年代になると、“dead”が多用され、用例が爆発的に増えていく。1876年の「ザ・シドニー・モーニングヘラルド」紙(オーストラリア・シドニー)、1878年の「ザ・フォールリバー・デイリー・ヘラルド」紙(アメリカ・マサチューセッツ州)といったふうに英語圏で普遍的な慣用表現にもなっていく。

 オックスフォードにおけるドードーの「再発見」は、『不思議の国のアリス』という稀有な作品を触媒にして、まずは英語圏に、さらには世界にこの不思議な鳥を知らしめた。今でも『不思議の国のアリス』を愛する観光客を集め、自然史博物館には最重要標本を所蔵するこの地を訪ねることは、「ドードーのビッグバン」を振り返ることでもある。

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