ネオニコチノイド系殺虫剤を使い始めた1993年に起きたこと

書籍『東大教授が世界に示した衝撃のエビデンス 魚はなぜ減った? 見えない真犯人を追う』から紹介 第3回

宍道湖のウナギは1993年に激減した。(写真提供:つり人社)
宍道湖のウナギは1993年に激減した。(写真提供:つり人社)
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 これらの結果から、宍道湖では魚のエサとなる底生動物も一部が大幅に減少しており、昆虫を含む節足動物も減少していた。そしてエビ類漁獲量の経年変化から、減少原因が発生したのは1993年と推定される。また節足動物以外の底生動物では、軟体動物のシジミには影響は見られなかったものの、環形動物では食性にかかわらず淡水から宍道湖内で生活史が完結する動物が減っていた。水田で使用され、淡水流入河川から供給されるネオニコチノイド系殺虫剤が原因であれば、底生動物のこのような変動をうまく説明できる。

宍道湖(秋鹿沖)のシジミ。(写真提供:山室真澄)
宍道湖(秋鹿沖)のシジミ。(写真提供:山室真澄)
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 底生動物は湖底に積もる堆積物を食べる種類もいるので、堆積物の有機物濃度も調べた。1997年と2016年を比較した結果、有機物濃度は現在のほうがむしろ増加していた。つまり、ウナギのエサとなるエビ類やゴカイ類のエサは減っていないのにウナギが減っており、やはりネオニコチノイド系殺虫剤の影響が疑われるのである。もしこの減少が1993年の田植え期(=ネオニコチノイド系殺虫剤が初めて使われたとき)ごろに起こっていたことが特定できれば、底生動物の減少もネオニコチノイド系殺虫剤が原因である可能性が高くなる。

ワカサギのエサになるオオユスリカも1993年に「消えた」

 先述のように底生動物もネオニコチノイド使用後に減少していたが、昆虫類のオオユスリカは全滅状態だった。ユスリカ類は釣りエサにするアカムシのことで、その幼虫が底生動物として堆積物中で過ごす。羽化する際に湖底から浮上するオオユスリカの幼虫は、ワカサギにとって重要なエサでもあった。

 オオユスリカは1990年代初めまでは、大量に羽化した成虫が道路につもってスリップが起きるなど、周辺住民にとって迷惑害虫となるほど大量に生息しており、国土交通省出雲河川事務所によって調査の対象となっていた。これらの資料から、宍道湖では1992年までは住民から苦情が出るほどオオユスリカが生息していたが、1993年4月以降の調査で突然生息しなくなり、その後1998年と1999年には1992年以前程度の密度でオオユスリカの生息が見られた地点もあったが、2000年以降は出現しても痕跡的な状態で今日に至っていることが分かった。つまり、ネオニコチノイド系殺虫剤がますます怪しくなってきた。

おわり

山室真澄(やまむろ ますみ)

1960年愛知県生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。専門分野は陸水学、沿岸海洋学、生物地球化学。学生時代の卒業研究から学位論文まで宍道湖の生きものをテーマに研究。その後も一貫して同湖の研究を続け、2019年にはウナギとワカサギの激減と殺虫剤ネオニコチノイドの関連をひもとく論文を学術誌「Science」に掲載された。

東大教授が世界に示した衝撃のエビデンス 魚はなぜ減った? 見えない真犯人を追う

近年ミツバチの大量死などで注目を浴びた「ネオニコチノイド系殺虫剤」。著者は、島根県・宍道湖のウナギとワカサギの漁獲高が激減したのは、この殺虫剤が水中の食物連鎖を破壊したためではないかという仮説を立てた。本書では当連載で紹介された内容に加え、議論に必要な「食物連鎖」「物質循環」といった概念もわかりやすく解説。また、漁獲高減少の要因として、湖岸改変や外来魚の影響なども検討し、さらには異変が発生した当時の環境中のネオニコチノイド系殺虫剤の濃度も推定したうえで、結論を導き出している。
著者:山室真澄
価格:1,100円(税込)

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