グーグル創業者も支援した、培養肉研究

書籍『クリーンミート 培養肉が世界を変える』から紹介 第2回

 オランダ政府からの助成による研究が終了したあと、研究者たちは研究成果を大々的に報道してもらう方法を考えて、ブレインストーミングを行った。「それで考えたのは、マーストリヒト大学にいる豚の生体組織を採取してソーセージをつくり、記者会見を開いてそのソーセージをふるまうことだった。そのまわりで、ソーセージの元になった豚を、まだ生きている豚をだよ、ステージに連れてきて歩かせるんだ。それができたらすごかったと思わないか?」

 このアイデアはオランダ人には最高にウケただろうが、ブリンの想像力に訴える力は、残念ながら、オールアメリカン・ハンバーガー(訳注:ニューヨークの人気ハンバーガーショップの名称)にも及ばなかった。「ブリンはロシア人だけど、アメリカ人にアピールするにはハンバーグが1番だと知っていた。それでぼくたちとしても、牛で行くしかなかったんだ」

 提案書の見積もりでは、世界初の培養肉ハンバーグをつくるのにかかる費用は約33万ドルだった。だが、映画『コンタクト』の台詞ではないが「ふたつつくれるならついでにつくれ」だ。

 ブリンは培養肉ハンバーグをふたつつくれるよう75万ドル近くを提供し、試作が始まった。おおまかな計画として、チームが考えた手順は基本的に次の4ステップだった。(1)単純な生体組織の採取によって牛の筋サテライト細胞を抽出する。(2)筋サテライト細胞を高栄 養培地に入れて増殖させる。(3)電流を流して増殖と筋肉の組成を促す。(4)筋肉を収穫し、脂肪・香料を添加するなど必要な加工を施す。

 ポストとフェアストラータの食肉培養には、牛から採取したほんのわずかな細胞しか使われなかった。だが、ことわっておかなければならないが、当時はその過程で殺処分が必要だった。130年前に人間が実験室で細胞を培養しだして以来、試験管内で筋細胞に栄養を与えるための培地は通常、血液からつくられている。

 ポストの実験で使われた培地はウシ胎児血清として知られるもので、これを得るには妊娠中の母牛を殺し、その死体から胎児をとり出すという、 ぞっとするような作業が必要だ。血清は胎児の血液から直接抽出され、研究室で分裂をくり返 す筋細胞を生かし続けるために使われる。培地にどれだけの血清を使うかにもよるが、牛の胎児1頭からとれる血清でわずか1キログラムの肉しかつくれないという試算もある。培養肉が 商品化されたあともそれだけの血清が必要だとすると、どうやって十分な数の牛の胎児を調達 するがが問題になる。

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