グーグル創業者も支援した、培養肉研究

書籍『クリーンミート 培養肉が世界を変える』から紹介 第2回

マーク・ポスト氏(写真提供:Mosa Meat)
マーク・ポスト氏(写真提供:Mosa Meat)
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 ポストのこの研究は、オランダ政府から200万ユーロの出資を受けた、研究の一環だった。小さなマウスの筋肉は長さ22ミリ、幅8ミリ、厚さ0・5ミリと、さほど大きくは育たなかったが、ポストにとっては計り知れない重要性があった。というのも、グーグルの共同創業者サーゲイ・ブリンの興味を引いたのは、まさにこの成功だったのだから。「研究室で肉をつくるというアイデアに、ぼくは最初から夢中だった。ところがたまたま、サーゲイ・ブリンも同じだったんだ」。ポストはうれしそうに言った。

 マウスの細胞でのポストの成功をあらためて見直し、インタビュー記事を読んだブリンは、元妻と創設した非営利団体、ブリン・ウォジツキ財団のカナダ人事務局長ロブ・フェザーストンホフに命じてポストに電話させた。フェザーストンホフは自分がブリンの代理であることを明かさなかったので、ポストは、培養肉の未来は明るいという自分の意見に賛同してくれただれかが、モントリオールからわざわざ電話をくれたぐらいにしか思わなかった。オランダに出向くので直接お会いできませんか、とフェザーストンホフに言われて初めて、この電話にはちょっとした好奇心以上のものがありそうだと気づいたのだ。

 こうしてオランダの祝日、2011年5月5日にふたりはマーストリヒトで顔を合わせ、フェザーストンホフは上司の名前を明かした。「でも最初はずっと、サーゲイとしか呼ばなかったんだ」。のちにオフィスを訪ねた私に、ポストは笑って言った。「もちろん誰のことかわかってますよね、という口調なんだよ。そのうちとうとう、どのサーゲイだかわかっていないと、認める羽目になった」

 自分の仕事のことを尋ねている人物がだれなのかがはっきりすると、ポストの頭にはさまざまな可能性が目まぐるしく渦巻いた。「実現できるのは、はっきりわかっていた。科学的には明白だったんだ。必要なのは、実際にそれを証明するための資金だけだった。その資金を手に入れるチャンスが、目の前にぶら下がっていた」

 フェザーストンホフはポストに、POC(概念実証)のための資金調達提案書を2ページ以内にまとめ、1週間以内に提出するようにと言った。ポストは微笑んで約束し、早速仕事にとりかかった。だが、フェザーストンホフが部屋を出ていくや否や研究仲間である食品化学者のピーター・フェアストラータに電話をかけ、興奮してこのニュースを伝えた。

「うまくいくのはわかっていた。失敗なんてあり得ないと思っていた。型通りにやりさえすれば、肉はできるに決まっていた。ただ、あれはぼくにとっては単なる実験じゃなかった。商品化という最終目標にたどり着くのにどうしても必要な、正真正銘の取引だったんだ」。ポストはそう振り返る。

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