【動画】ハリガネムシが寄生したカマキリの入水
カマキリが水に飛び込んだ後、ハリガネムシがお腹から徐々に出てくる(0:30~)。ハリガネムシが抜けた後のカマキリは(1:23~)1週間程度は生きるものの、かなり弱ってしまう。 また、寄生されたカマキリの生殖機能はほとんど発達しない。 (動画提供:佐藤拓哉)

「水面の明るい反射光を利用している説」を疑ってみた

 これまでの研究では、「ハリガネムシ類に寄生された宿主は、水面からの明るい反射光に引き寄せられて入水する」という説が最も有力であった。しかし、河原の砂利や光沢のある葉など、光を強く反射する場所はたくさんある。宿主がそうした明るい場所にいちいち誘引されていては、川や池にうまくたどり着けない。そのため、筆者の大林(研究当時、修士課程在籍)と佐藤は、単純な明るさへの誘引だけでは、宿主が水に飛び込む仕組みをうまく説明できないのではないかと話していた。

 そんな折、動物の光受容を専門とする保 智己(たもつ さとし)教授(奈良女子大学)が神戸大学に研究相談にやってきた。保教授は、帰り間際に私たちの議論を聞き、「水面からの反射光は偏光を多く含むので、光の強度だけでなく、偏光についても調べてみてはどうだろう」と助言をくれた。

 我々は、直感的に、すごくよい助言をいただいたと思った。しかし、そもそも偏光とは何だろう? 偏光グラスなどは身近にあるが、偏光そのものへの理解は身近ではなかった。光の正体は、電磁波と呼ばれる波である。太陽や電灯などから放射される自然光(非偏光)は、さまざまな振動方向の波(光)の集まりである。しかし、自然光が空気中の粒子や物体、水面等に反射すると、波の振動方向に偏りのある偏光が含まれるようになるのだ。

 とりわけ、水面の反射光は、波の振動方向が水平に偏る水平偏光を多く含んでいる。また、水平偏光は、水深が深く、底面が暗い水辺からの反射光により多く含まれる。そして、カゲロウやトビケラなどの水生昆虫の成虫は、空を飛びながら水辺を探索する際に、水平偏光の強度を手掛かりにしていることが明らかにされ始めていたのだ。

 偏光について調べるほどに、我々は、これまでの謎が解けていく感覚に包まれた。ハリガネムシが寄生したカマキリを水辺以外の明るい場所でみかけないのも、非常に明るい(光強度の強い)水たまりでハリガネムシをほとんどみないのも、そういった場所からの反射光に水平偏光が含まれにくいことで、説明がつくのだ。我々は、「ハリガネムシ類に操作されているカマキリは、水平偏光に誘引されて水に飛び込んでいる」という仮説を立てた。

はじめての偏光選択実験-カマキリは水平偏光に誘引されるのか

 この仮説を検証するために、まずハリガネムシ(Chordodes sp.)に寄生されたハラビロカマキリ(Hierodula patellifera)が、本当に水平偏光に誘引されるのかを調べることにした。そこで、筒の一方から偏光を、他方から自然光(非偏光)を照射して、筒の真ん中から入ってきたカマキリがどちらの光に誘引されるかを調べる装置を作成した(図2)。この装置を作成するに当たり、我々には強い味方がいた。昆虫の偏光視によるナビゲーションの専門家である佐倉 緑博士(神戸大・准教授)である。佐倉さんには、偏光の基本理論から装置の作成上の注意事項まで、実にたくさんの助言をいただいた。

(画像提供:佐藤拓哉)
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 かくして、出来上がった装置の中央から、カマキリを入れ、10分後に定位している場所を記録した。この光選択実験を4つの光強度(薄明薄暮:~150 ルクス、曇天:2000と6000ルクス、晴天:15000 ルクス)で行い、水平偏光に誘引される確率が明るさによって異なるかを調べた。

 実験の結果、ハリガネムシが寄生したカマキリは、そうでないカマキリに比べて、水平偏光側を選択する確率が約2倍高まっていた。

 一方、水面からの反射光にはほとんど含まれない垂直偏光を照射した場合には、寄生の有無と光強度に関わらず、偏光側を選択する傾向は認められなかった。これらの結果に基づいて、我々は、「ハリガネムシが寄生したカマキリは、水平偏光に誘引される」と結論した。

次ページ:クライマックスの野外実験、カマキリは本当に水平偏光が強い池に飛び込むか!?

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