もう1つ重要なのが「光源」だ。当然水中は陸上よりも暗い。また太陽光は水に赤色を吸収されて、水面から海底に届くまでに青色になっている。
 そのため、強力なフラッシュライトを「水中ハウジング」に搭載している。ハウジングの左右から出ている持ち手の先に電気スタンドのように伸ばしたり折り曲げたりできるアームを付け、そこにライトをセットするのだ。私は、2019年までは強力なフラッシュライトを2つ、2019年以降は更にビデオライトを2つ追加し、計4つの水中ライトで対象物を照らしながら撮影している。
 カメラのセッティングはマニュアルで、絞り値とシャッタースピードを高く設定する。これによってボカシや手振れの少ない鮮明な写真が撮れる。
 ただ、絞り値とシャッタースピードの両方の値を高くセッティングすると、写真が暗くなる。そのためにも私はかなり光量の多い水中ライトを4つ併用しているのだが、水中ライトがカメラに近すぎると、水に漂っている不純物からの照り返しを受けてしまうので、なるべく長いアームを使い、ライトの位置をなるべくカメラから離している。それを左右対称に設置することにより、片方の水中ライトによってつくられる影を相殺しているのだ。ここまでセットしたカメラを手に持った姿は、さながら大きなカニを持っているように見えるだろう。
 また、水中では全てが青くなってしまうので、撮影時に使うフラッシュライトを焚いた状態にしてからカメラのホワイトバランス設定を調節する。これらが全て終わって、いよいよフォトグラメトリのための写真撮影を始められる。

水中ハウジングに水中ライトをセットしたカメラ。(写真提供:山舩晃太郎)
水中ハウジングに水中ライトをセットしたカメラ。(写真提供:山舩晃太郎)
[画像をタップでギャラリー表示]

 3Dモデルを作成するには、相当な撮影数が必要だ。なぜかというと、フォトグラメトリソフトウェアは、写真を撮影したカメラの位置の違いを自動認識する。それを何百・何千回と繰り返すことにより、対象物の形を認識する。例えば、遺跡の周りに眼が何百・何千とあれば対象の形をしっかり認識できるだろう。フォトグラメトリでは「眼」の代わりに「デジタル写真」を使っているわけだ。

 撮影時、私は次に撮る写真と、その前に撮った写真が80%以上オーバーラッピングするように撮影し続ける。つまり対象の箇所が5回連続写真に写り込む(撮影範囲が20%ずつ進む)頻度で撮影する。そうすれば、ソフトウェアが正確に連続する撮影箇所を認識できるし、前後の写真に、撮影できていない欠落が生じないからだ。
 写真撮影をする時は、離れすぎると透明度の関係で対象が鮮明に写らなくなるので、大体1m~1.5mぐらいの距離で撮影する。特に重要な箇所は30~50㎝ぐらいまで対象物に近づく。
 30分の作業時間で2000枚近くの撮影をすることもある。1秒に1回かそれ以上の頻度で撮影をしている計算だ。1回のダイビングで写真撮影の作業が終わらないことが多いので、その場合は何回でも潜り、写真を撮りまくる。

 よく「自動撮影モード(タイムラプス)」を使わないのかと質問を受けるが、使わない。写真撮影の1回1回にオートフォーカスで焦点を合わせるためである。つまりシャッターボタンを半押しにして、常に対象物に焦点の合ったクリアな写真を撮れるようにしているのだ。
 ちなみに遺跡に近づいたり離れたりすると水中フラッシュライトと対象物の距離の違いで、写真ごとに暗くなったり明るくなったりする。また浅い水深での作業は、太陽が雲に入ったり出たりで明るさが変わってしまう。こうした変化は頻繁に起こるので、私は一瞬で絞り値やシャッタースピードを調節することによって、撮影作業を中断せずに露出(明るさ)を調節できるようにしている。使用しているカメラは「自分の体の一部」というぐらいに使いこなせないといけないのだ。
 ただこれには1つ問題がある。指が攣(つ)りそうになるのだ。毎年、発掘シーズンの初めのうちは指の筋肉と連動している手の甲が筋肉痛になる。これも職業病だろうか……。

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る