水中遺跡の撮影は、一瞬一瞬が判断の連続

書籍『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』 から紹介 第3回

 遺物の保存処理や復元には、基本的には数カ月から数年もの時間がかかる。木材や鉄製の遺物では数十年かかることもざらだ。
 そのため、水中発掘で遺物が引き上げられても、すぐに博物館などで展示されるわけではない。例えば、1628年にストックホルム港で沈没したスウェーデンのヴァーサ号は、船体が引き上げられてから展示までに27年かかっている。引き上げられた船体全体に、それまで木材の細胞内を満たしていた海水の代わりにPEG(ポリエチレングリコール)という化合物を溶かした水溶液を浸透させ、コーティングが完了するのには、それほどの時間がかかるのだ。

 ちなみに、陸に引き上げたアンフォラは何もしないと、とても臭い。
 なにせ何百年も水中に残され、ウツボやタコが住み着いていたのである。生き物が腐敗したような臭いがするし、タコが集めてきたガラクタが詰まっている。海底では魅力的に見えた海綿も、手で触れるとねちょねちょしている。遺物としてはとても重要だが、正直、私はアンフォラが好きではない。
 形状や見た目は歴史を感じることができてかっこいいのだが、アンフォラは写真で見るに限る、というのが個人的な意見だ。

発見が止まらない!

 夢の中にいるように楽しかったフルニ島での3週間は、あっという間に過ぎていった。
 2班の水中探査チームは新たに8隻の古代と中世の沈没船を発見した。これでフルニ島周辺から発見された沈没船の総数は53隻となった。

 しかし、これだけでは終わらず、更に翌年の2018年、3週間弱の調査で新たに5隻が見つかった。合計で58隻もの沈没船がフルニ島の周辺の海底から発見されたことになる。私も2018年のシーズンに新たに7隻の沈没船遺跡の記録作業を行い、記録作業が終わったのは15隻となった。
 この調査シーズンで、ギリシャ・フルニ島での新たな沈没船の水中探査作業には一段落が付き、2021年以降に再開される調査では、いよいよいくつかの沈没船の発掘作業も開始される予定だ。ただ、まだ海の中には43隻の沈没船が残っている。これら全ての沈没船の調査が終わる頃には、きっと驚くような新発見が沢山あることだろう。

おわり

山舩氏ら調査チームが3週間滞在したフルニ島。(写真提供:山舩晃太郎)
山舩氏ら調査チームが3週間滞在したフルニ島。(写真提供:山舩晃太郎)
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山舩 晃太郎(やまふね こうたろう)

1984年3月生まれ。2006年法政大学文学部卒業。テキサスA&M大学・大学院文化人類学科船舶考古学専攻(2012年修士、2016年博士号修得)船舶考古学博士。合同会社アパラティス代表社員。テキサスA&M大沈没船復元再構築研究室研究員。西洋船(古代・中世・近代)を主たる研究対象とする考古学と歴史学の他、水中文化遺産の3次元測量と沈没船の復元構築が専門。

沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う

英語力ゼロなのに単身渡米、ハンバーガーすら注文できず心が折れた青年が、10年かけて憧れの水中考古学者に。その日常は驚きと発見の連続だった! 指先さえ見えない視界不良のドブ川でレア古代船を掘り出し、カリブ海で正体不明の海賊船を追い、エーゲ海で命を危険にさらす。まだ見ぬ船を追うエキサイティングな発掘記。

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