一口に考古学と言っても、各国ごとに傾向がある。国によって研究の主な目的や、遺跡からどのような情報を求めているのかが違ってくるからだ。
 それが顕著に表れるのが、その国の考古学者が作成する実測図である。私はメンバーの中で仲良くなったギリシャ人の建築家に、これまでギリシャチームが手作業で作成してきた実測図を見せてもらった。
 その実測図は、沈没船がどのように沈んだか、どのように遺跡が海の中で変化してきたかなどの情報を重視するものになっていて、アンフォラの向きと種類も正確に記されていた。
 それを見て、ギリシャの水中考古学においては遺跡周辺の地形とアンフォラの形状、その出土位置がもっとも重要視されていると推測した。
 そのため私は、地形とアンフォラの形状が詳しく分かるような実測図を作成した。ギリシャの水中考古学チームは通常これをチーム総動員で数週間かけて行う。それがプロジェクト開始から数日で目の前に現れたのだ、しかも誤差はミリメートル単位の精度となっている。

 コウツォウフラキス博士はすぐに他のメンバーも呼んで、その沈没船遺跡の考察を始めた。嬉しそうに興奮しながらギリシャ語で話している。内容は分からないが白熱した議論をしているであろうコウツォウフラキス博士に、私はこう聞いてみた。
「この情報は使えますか?」
「もちろん!」
 博士は力強く答えた。ピーターは隣でニヤニヤしている。

水深60mの蒼

 プロジェクトが始まって2週間目、コウツォウフラキス博士からある記録作業の指示が出た。
「フルニ島に数多くある沈没船遺跡でも、特に水深が深いものは波の影響も受けておらず、保存状態がいい。盗掘を全く受けていない可能性も大きい。そのため水深45m、50m、60m地点にある3隻の沈没船から幾つかのアンフォラの引き上げを考えている。コウタにはその前にこの沈没船の3Dモデルと実測図を作成しておいてほしい」
 それまで水深40mより深い場所に潜ったこともなかったので、私は少し不安になった。
 水中作業は、安全を期して必ず2人1組で行うことになっている。各人が備えている予備のレギュレーターがもしもの時のバックアップになるからだ。それに、一般的には水深10m以下の場所では、ダイビングの機材に不備があったとしても水面まで浮上できる可能性も高く、基本的に命の危険はない。水深30mでも、急浮上したら潜水病になる危険性はあるが、死ぬということはない。
 しかし、水深40mよりも深い場所で何か起き、しかもその時にパートナーが近くにいない場合、完全に「アウト」だ。なので、水深40m以上の場所で作業を行うと言われると、改めて「自分の仕事は命がけなんだ」と再認識させられた。

 まず初めに行ったのは水深45m地点の沈没船遺跡である。正直、少し緊張したのをよく覚えている。
「怖いな」
 太陽の光がまだ明るく差す水面付近からは海底は見えない。透き通った水の奥に見えるのはただただ「漆黒」だ。それが水深25m地点まで潜ると、少しずつ周りも暗くなり目が慣れてくる。更に潜水すると、光が十分に届かないので、紺碧の暗闇の中にいるような気持になる。その中から、徐々に沈没船が現れてくる。深い蒼の世界から遺跡がボヤーッと浮き上がってくる感覚だ。

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