私はこれまでの調査経験から、沈没船は目を凝らして探さないとなかなか見つからないことを知っていた。海底に残されているアンフォラなどの遺物の一部も、水中では岩と区別がつきにくいからだ。しかしフルニ島の遺跡ではそんな心配はいらなかった。
 積み重なった何百ものアンフォラが見える。水深の浅い場所にある沈没船のため、アンフォラは波の影響で割れてしまい、完璧な形で残っているものは無かったものの、取っ手など、破片は綺麗な形を保っている。
「おーーーーーーー! 凄いなー‼」
 ピーターと私は一通りアンフォラの山を見て回り、さらに北に向かって泳ぎ、2隻の沈没船を確認することができた。こちらも先に見た沈没船と同様、アンフォラの塊が転がっている。100m泳いだら1隻の割合で沈没船がある! 何という場所なんだ! 早く作業を始めたい。

ギリシャ人リーダーからの洗礼

 だが、発掘の現場は一筋縄ではいかない。水中調査2日目の朝、プロジェクトのトップ、コウツォウフラキス博士に呼び出された。

「コウタ、私はフォトグラメトリには全く期待していない。散々チーム内でフォトグラメトリを使用してきたが、誤差が酷い。考古学には全く役に立たないだろう。今回はピーターの頼みで君を招いたが、そこまで頑張らなくていいから、初めてのギリシャを楽しんでくれ」

 博士の言葉に「おっ! そう来たか」とは思ったものの、あまり驚かなかった。
 現在でこそ全く無くなったが、2018年頃までは学会やメールでこの手の反応をもらうことは、本当に多かった。
 実は私も「フォトグラメトリは役に立たない」という意見がなぜ出てきてしまうのか、理解していた。使い手の知識と技量が足りず、カメラ設定やデータの取り方を間違えていたり、データ処理の仕方がまずく、使い物にならない粗末なフォトグラメトリ3Dモデルを、何度も見てきたからだ。
 文句を言ってくる考古学者達が、そうした精度の低いフォトグラメトリしか見てこなかったのであれば、彼らの意見も全く正しい。ただ、今回のフルニ島でのプロジェクトは、私も報酬をもらってやってきたのだ。フォトグラメトリを使用したデジタル3Dモデル作成と、そのモデルから実測図(遺跡の地図)を作成するという仕事を放って、ただ日光浴を楽しんでいるわけにはいかない。

 とりあえずコウツォウフラキス博士には、「お考えはもっともですが、博士が今後、沈没船遺跡の分析を行う際に少しでも参考になるような情報を作るために頑張ってみます」とだけ伝えた。遠くで笑って見ているピーターの姿が見える。

 数日後、私は朝食の時間にコウツォウフラキス博士にこっそり声をかけ、沈没船遺跡の3Dモデルを見せた。
「一応こんなのができました」
 彼の眼の色が変わった。
「どうやったんだ? データの精度は?」
 私は3Dモデルの寸法の精度とその根拠を説明して、続けてそこから作成した実測図を見せた。
「どうやって……」
 博士は言葉を失って、ジッと実測図に見入った。

ギリシャの水中考古学者達に最初の3D実測図の成果を見せている様子。パソコンの前に座っているのがギリシャ人のプロジェクトディレクター、コウツォフラキス博士。(写真提供:山舩晃太郎)<br><br>編集部注:フルニ島プロジェクトの詳しい様子や山舩氏が作成した3D実測図は<a href="https://archaeologynewsnetwork.blogspot.com/2017/07/eight-new-shipwrecks-discovered-in.html" target="_blank" class="white">非営利研究団体「Archeology News Network」</a>でご覧いただけます。
ギリシャの水中考古学者達に最初の3D実測図の成果を見せている様子。パソコンの前に座っているのがギリシャ人のプロジェクトディレクター、コウツォフラキス博士。(写真提供:山舩晃太郎)

編集部注:フルニ島プロジェクトの詳しい様子や山舩氏が作成した3D実測図は非営利研究団体「Archeology News Network」でご覧いただけます。
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