とはいえ私は、ピーターからメールをもらうまで、自分がこの調査に参加できるとは夢にも思っていなかった。今でこそ、古代船から第二次世界大戦期の水中戦争遺跡関連の仕事まで幅広い依頼が来るようになったが、2016年当時、私のもとにくるのは大航海時代(15~17世紀)とそれ以降の沈没船に関わる水中発掘調査の依頼がほとんどだった。
 私が構築したフォトグラメトリから沈没船研究を行う方法論が、特に11世紀以降の木造帆船に使い勝手が良かったからである。

山舩氏が作成した沈没船3Dモデル
クロアチアで16世紀後半に沈んだベネチア商船の水中沈没船遺跡。この3Dモデルは山舩氏がフォトグラメトリを使って記録し作成したもの。(動画提供:山舩晃太郎)

 11世紀以前の木造船は外板部から先に造り、そこにフィットするようにフレームを当てるという順番で造られていたが、11世紀以降は逆にフレームから先に造られるようになった。この方が、船全体の形状をコントロールできるからだ。そのため、11世紀以降の船はフレームの形状が分かれば、どのような意図と技術を基に当時の人々が船をデザインしたかが分かる。

 私の方法論は沈没船遺跡から各フレームの形状を正確に抜き出すことができるので、特に11世紀以降の船の形状を再現する際に重宝される。だから、古代船も調査対象のこのプロジェクトで、私に依頼が来るとは考えていなかったのだ。
 各国で仕事をしながら、フワフワと落ち着かない気持ちで、ギリシャでのプロジェクトの開始を待つことになった。

アイラブ学術調査

 こうしたプロジェクトの依頼はどのように舞い込むのか。
 私の場合、まず各国の政府の考古学研究機関や博物館、大学の学術調査のみを受けることにしている。理由はただ1つ。しっかりと研究を行える学術調査が楽しいからだ。

「学術調査以外に考古学者がかかわる発掘案件なんてあるの?」と不思議に思う方もいるかもしれないが、世界中の考古学の発掘調査の90%以上が、建設工事などに伴って行われるものなのだ。
 通常、建物や高速道路、港などの建設工事を行う前には、建設予定地の事前調査が行われる。その調査で文化遺産が発見された場合、工事で破壊される前に、考古学者達によって緊急の発掘調査が行われる。これが、世界中で行われる発掘のほとんどを占める。保存処理などは行わず、記録を取ったらそこで終わりだ。

 それに対し、学術調査の場合、どこかで重要な遺跡が発見されたとの報告が研究機関に届くと、まずその機関が国や地域に関わる重要な遺跡かどうか判断するため、事前調査を行う。その後、政府や財団へ発掘研究費を申請、それが通ると調査チームを発足させる。私への調査参加オファーはこの段階で連絡が来る。プロジェクトのリーダーとなる水中考古学者からの連絡が大半だが、そのほとんどは知り合いか、どこかの学会で会ったことのある考古学者だ。学会では、夜の懇親会で一緒に酒を飲むことが多いので、その時にプロジェクトや研究内容をおおよそ聞いているし、酔った時の人柄も分かるので、安心して依頼を引き受けることができる。

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