気鋭の水中考古学者、夢にまで見たギリシャの沈没船調査へ

書籍『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』から紹介 第1回

 もう1つ多いケースは、ワークショップや発掘プロジェクトで一緒になったことのある水中考古学者からの依頼だ。水中考古学を学べる大学はまだ世界的にも少ない。そのため、各国の第一線で活躍している陸上の考古学者達が、他国で行われている水中発掘プロジェクトに参加し、ノウハウを学ぶケースが多い。そこで知り合いになった考古学者達が、私に依頼してくれるのだ。
 例えば、コロンビアで一緒に水中発掘をした水中考古学者からウルグアイでの仕事依頼があり、さらにそのウルグアイでのプロジェクトで一緒になったメキシコの水中考古学者から、依頼をもらったこともある。

 もちろん、口コミで私の連絡先を知った学者からもオファーをもらうことがある。例えば、今回のギリシャのビッグ・プロジェクトで私に声をかけてくれたピーターとは、それまで直接の面識はなかったが、共通の知り合いからお互いのことは聞いていた。私に興味を持ってくれた彼が声をかけてくれたわけだ。
 このような感じで仕事の依頼を頂けるため、日本人の私が各国の面白そうな学術調査に上手く潜り込めているのである。

お茶目なトップ研究者

 2017年の夏、私は待ちに待ったギリシャに到着した。
 アテネの空港にはピーターが迎えに来てくれた。彼とはテレビ電話をした後も、何回も打ち合わせをしていたので、初めて会う感じはしなかった。
 私にとって初めてのギリシャだったが、街並みが想像とは異なり、少々面食らった。同じ地中海の古代文明が栄えた地ということで、以前訪れたことのあったイタリアのローマのような中世の面影を残した風景を想像していたが、アテネのビルはコンクリート製で、それでいて古いものが多かった。おそらく多くが作られてから30年以上経っているだろう。それが雑多に立ち並んでいる。
 よく考えれば、古代の繁栄の時期を終えていたアテネには、イタリアのような中世後期の街並みは無かったので当たり前である。今のアテネの街並みは、古代の遺跡以外は近代から現代に造られたものなのだ。
 ただ、大通りや坂の上など少し見晴らしのいい場所からはアクロポリスにそびえたつパルテノン神殿が見える。遠くから眺めてもやはり壮大だ! 自分がギリシャにいるのだと気付かされる。

ピーター・キャンベル博士。(写真提供:山舩晃太郎)
ピーター・キャンベル博士。(写真提供:山舩晃太郎)
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 ピーターは恐ろしく優秀な研究者である。今回、私が誘われたプロジェクトを率いていることからして、同年代の水中考古学者ではトップであろう。普通だったら誰かに嫉妬されてもおかしくないのだが、気さくでお茶目な「愛されキャラ」のため、彼のことを悪く言う人物を私は知らない。
 彼の人柄が分かるエピソードを1つ紹介しよう。2018年に私達が再びフルニ島での調査のためにアテネを訪れた時、島に出発する前日に「明日からは、島でギリシャ料理しか食べられないから、なにか別のものを食べておこう」という話になった。その場にいた6人の満場一致で中華料理店に行ったのに、ピーターだけなぜかフライドチキンを食べ、食中毒になった。
 不運ではあるが、どこかとぼけたところがあり、何年経っても笑い種(ぐさ)になるような話題を提供してくれる人物なのだ。

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