気鋭の水中考古学者、夢にまで見たギリシャの沈没船調査へ
書籍『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』から紹介 第1回
「水中考古学者は綺麗な場所だから潜るのではない。“船がそこにあるから”潜るのだ」。そう語るのは水中考古学者、山舩晃太郎氏。かつてプロ野球選手を目指していたが、ケガで挫折。失意の中で「水中考古学」という新しい世界を知り、名門テキサスA&M大学で猛勉強の末、10年かけて水中考古学者になる夢を叶えた。そんな山舩氏が駆使する最新技術「フォトグラメトリ」(何千枚もの水中写真から調査現場の3Dモデルを作成する手法)が高い評価を受け、今や世界各国の調査機関から引く手あまただという。
先ごろ、山舩氏は世界中の海で行ってきたフィールドワークを綴った初の著書『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』(新潮社)を発表。地中海で大量の沈没船発見というニュース(「地中海で大量の沈没船が見つかる、ギリシャ沖」)はナショジオでも伝えているが、山舩氏も参加したその沈没船調査にまつわるエピソードを抜粋して紹介する。(全3回)
依頼は突然に
大学院を卒業して約半年後の2016年の秋、あるアメリカ人水中考古学者から1通のメールが届いた。
「山舩博士、はじめまして。話したいことがあるんだけど、近いうちにテレビ電話できるかな?」
差出人は、ピーター・キャンベル。イギリスのサウザンプトン大学の博士課程に在籍していた、私と同い年の若手学者だ(2018年に博士課程を修了し、現在は博士となっている)。さっそく話すことになった。軽い挨拶を終えた後、彼は単刀直入に私に尋ねた。
「今、ギリシャ政府と共同で水中調査プロジェクトを行っているんだけど、来年の夏に記録作業の責任者として参加してくれないかな?」
私は興奮をなんとか顔に出さないように、しかし食い気味に答えた。「もちろん!」
テレビ電話が切れると、私は1人、喜びを爆発させた。
「やった! やった! やった‼」
なぜ私がここまで歓喜したのか。それはピーターから誘われたプロジェクトが、すでに『ナショナル ジオグラフィック』や考古学の雑誌を賑わせ、近年の水中考古学界で最大の注目の的だったからである。
2015年、ピーター達はエーゲ海東部に位置するギリシャのフルニ島沿岸部で22隻の沈没船を見つけた。最も古い沈没船は紀元前700~紀元前480年のもので、最も新しい沈没船は16世紀のものだった。しかも、たった2週間でこれだけの数の船を見つけ出すという快挙だった。(「地中海で大量の沈没船が見つかる、ギリシャ沖」)
これだけでも大きなニュースだったが、続く2016年、同じ地域でさらに23隻の沈没船を発見。2年間で45隻もの沈没船を見つけ出したのだ。
雑誌で見たフルニ島の景色と水中の沈没船遺跡の写真は、どれもとても美しかった。かつて日本の大学生時代に英語がわからないまま、「行ってみたい」と思った理想の風景がそこにあった。この美しいプロジェクトに参加できる考古学者が羨ましくて仕方がない!
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