単に蘇らせればよいということではない

 ただし、単にマンモスを蘇らせればよいということではありません。例えば、過去にマンモスが生息していた地域はマンモスステップと呼ばれる草原であったと考えられていますが、現在ではタイガと呼ばれる針葉樹林やツンドラと呼ばれる平原になっており、マンモスが生息していた頃とは気候や環境が大きく異なっています。そのような場所へ、蘇ったマンモスを放すことができるのでしょうか? そしてマンモスを放すことによって生じる現在の生態系への影響はどのようなものなのでしょう?

 もしも自然環境へ蘇ったマンモスを放すことができないのであれば、蘇ったマンモスはその一生を人工的な閉鎖環境下ですごさなければなりません。さらに、現生のゾウは群れを作って生活をしています。マンモスも、その生活に群れを必要とするのではないでしょうか?

ギャラリー:「マンモス展」のみどころ 写真11点(画像クリックでギャラリーページへ)
ケナガマンモスの鼻
特別重要文化財(ロシア連邦)/年代:3万2700年前/発掘年:2013年9月
発掘場所:サハ共和国ノボシビルスク諸島 マールイ・リャホフスキー島(Photo:Yasutaka Hoshino(NEXTERA))

 ほかにも課題はあります。私たちは人工子宮内でのマンモスの胚の育成を考えていますが、人工子宮から生まれたマンモスの子供はおそらく、植物の消化能力を持ちません。草食動物の多くは、消化管内で微生物の助けを借りて植物を消化しています。草食動物の子供は親の糞を食べるなどのかたちで消化管内の微生物を受け継ぎ、植物の消化能力をもつようになります。人工子宮から生まれたマンモスの子供には、どのようにして植物を消化する能力を持たせればいいのでしょうか? 絶滅した古代の動物を再生するのには、単純に再生するだけではなく、再生に伴う様々な問題を解決しなければならないのです。

 国際自然保護連合(IUCN)の種の保存委員会(SSC)が定めている「保全のための絶滅種の代用種作製に関る基本理念」は、現在の技術では絶滅種の忠実な複製を作製することはできないため、作製されうるものは絶滅種の代用種であると考えています。また、絶滅種の代用種の作製について、それが正当であるとされるのは、原種の絶滅によって失われた可能性がある生態系の働きや推移を修復することができる場合であるとしています。私たちは、このような考えに従って、絶滅動物の再生に関わる倫理的問題、環境的問題および動物福祉の問題等が解決されなければ、絶滅動物の再生をおこなってはならないと考えます。

加藤 博己(かとう ひろみ)

近畿大学 先端技術総合研究所 生物工学技術研究センター教授。ウシやヒツジの体外受精における卵の体外成熟の研究や、世界初のウマの顕微授精による産仔作製等に関与した。約20年前から近畿大学においてマンモス復活プロジェクトに携わる。専門は生殖生理学、分子生物学、古生物学。

企画展「マンモス展」-その『生命』は蘇るのか-

2005年「愛・地球博」で700万人が熱狂した「ユカギルマンモス」をはじめ、近年ロシアの永久凍土から発掘された数々の貴重な冷凍標本を世界初公開する、史上最大規模のマンモス展。
会期:2019年6月7日(金)~11月4日(月・休)
会場:日本科学未来館(東京・お台場)

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