まずわかったのは、「YUKA」が2万8000年前のマンモスであること、そして、たしかに細胞核の成分が存在していることでした。そこで、筋肉組織から回収したマンモスの細胞核を、マウス卵に注入し、マウス卵を生かしたまま細胞核の動きを観察しました。
その結果、マンモス細胞核が新たにマウス由来の細胞核タンパク質を取り込みはじめ、なかには細胞分裂をする直前の形になるものも存在しました。さらに、マンモス細胞核の一部が最終的にマウス卵の細胞核の中に取り込まれる現象まで確認できました。

マンモス再生への道のり
今回の研究において、いくつかのマンモスの細胞核が、永久凍土の中で2万8000年間も生物学的特性を維持してきたことが初めて明らかになりました。しかし、「YUKA」のように状態が非常に良いと考えられるサンプルでも、DNAの断片化がかなり進んでいることもわかりました。つまり、現在の核移植技術では、マンモスの体細胞クローン個体作製には至らないことを示す結果となりました。
今後は、「YUKA」のように状態がよいサンプルから、DNAやタンパク質情報など、マンモスを構成する情報を集め、それらの情報を基に新たにマンモスの細胞を合成することを考えています。細胞が合成されれば、iPS細胞技術を用いて精子と卵を作出し、受精を経てマンモスの胚を作製します。また、並行してこのマンモスの胚を育てる人工子宮が開発されれば、マンモスを再び見ることができるかもしれません。
「絶滅種を復活させることにどんな意味があるのか?」という声もあると思います。私たちは、マンモスは、手の届く可能性のある絶滅した動物の代表であると考えています。絶滅した動物というと、まず「恐竜」が思い浮かぶ方が多いのですが、恐竜の絶滅は6550万年前のことで、恐竜のDNAが保存されていたとの報告はこれまでになく、恐竜の生物学的な情報は希薄です。これに対して、マンモスは氷河期に生息していたため、現代に冷凍標本が発見され、それらの標本から得られた生物学的な情報が集積されつつあります。
また、マンモスを復活させることを研究する過程で開発された様々な技術は、マンモスだけでなく、他の種の復活等にも応用が可能です。現在、先に書きました体細胞をiPS細胞化した後に精子と卵を作製し、受精卵を得ようという方法は、最後の雄個体が死に、絶滅が目前に迫ったキタシロサイの復活のためにも利用が考えられている技術です。さらに、近年人間による乱獲や外来の伝染病の蔓延などによって姿を消したニホンオオカミやニホンカワウソでは、日本における「生態系の正常化」という意味において、その復活に大きな意味があると考えています。