日・ロ合同調査隊は4万2000~4万1000年前の仔ウマの冷凍標本も入手している。サハ共和国ベルホヤンスク地区バタガイカ・クレーターで採集されたもので、ほぼ完全な全身標本である。調査したサハ共和国「マンモスミュージアム」のセミヨン・グレゴリエフ館長によれば、いままで発見されてきた冷凍標本のなかで最高の保存状態であるという。

仔ウマの完全な冷凍標本(提供:近藤洋一)
仔ウマには体毛が残っている(提供:近藤洋一)

 その後の調査で仔ウマを解剖した結果、液体の血液と尿の採取に成功したというニュースが最近になって入ってきた。はたしてこの標本からどのようなことが解明されていくであろうか。

 4万年前といえば、まさに日本の野尻湖でナウマンゾウが闊歩していた時代である。この氷河時代のウマがこのように生々しい姿で現代に現れてきたことは驚きである。最近のDNA分析の研究では、いま野生といわれているウマはそのほとんどが野生ではなく、家畜化したウマの子孫であるらしい。では現代のウマの先祖はなにか。今回発見された仔ウマの分析結果によって、現在のウマにつながる進化の過程が解明されるかもしれない。

「ユカギルバイソン」
特別重要文化財(ロシア連邦)/年代:9300 年前/発掘年:2011年8月
発掘場所:サハ共和国ウスチ・ヤンスク地区 ヤナ・インジギルカ低地チュクチャラフ湖(Photo:Yasutaka Hoshino(NEXTERA))

 また較正年代9300年前のバイソンも冷凍標本で展示される。これは2011年にサハ共和国ウスチ・ヤンスク地区で発見された。体毛も一部保存されており、胃の内容物の解析も行われている。草原の環境からツンドラへと植生が変化していった中で、バイソンはしだいに生息範囲を狭めていったのであろう。絶滅期の様子を示す貴重な標本である。

 2015年にサハ共和国ウスチ・ヤンスク地区から発見された仔イヌの冷凍標本も興味深い。較正年代1万2450年前というから、すでに家畜化が進んでいた時代のものであろう。仔イヌなので種の特徴が明確でないが、家畜化の過程を解明する上で重要である。

仔イヌ
特別重要文化財(ロシア連邦)/年代:1万2450年前/発掘年:2015年8月
発掘場所:サハ共和国ウスチ・ヤンスク地区 スィアラアフ川流域(Photo:Yasutaka Hoshino(NEXTERA))

 時代は新しくなるが、今回の展示される異色な標本として、サハ共和国ベルホヤンスク地区ユニュゲンで見つかったライチョウがある。1600年前という年代値が得られているもので、いま日本にいるライチョウとの関係がDNA分析等で解明されると面白い。文献によると日本には平安時代からライチョウがいたらしいが、化石で見つかっている例はない。

ライチョウ
特別重要文化財(ロシア連邦)/年代:1600 年前/発掘年:2016年8月
発掘場所:サハ共和国ベルホヤンスク地区ユニュゲン(Photo:Yasutaka Hoshino(NEXTERA))

マンモスとナウマンゾウ

 ヨーロッパ、中国、北アメリカではケナガマンモスの化石はたいへん多く産出しており、ポピュラーな存在である。日本はどうかというと北海道では12点ケナガマンモスの臼歯化石が見つかっている。ケナガマンモスの祖先であるトロゴンテリーゾウ(ムカシマンモス)も日本各地から27点も見つかっているが意外と知られていない。

 むしろ日本ではナウマンゾウのほうが知られている。長野県野尻湖では50頭近いナウマンゾウが発掘されており、いまでも小学生から一般の愛好家たちまで多くの人が全国から集まって2年に一度発掘が行われている。ナウマンゾウも氷河時代に生息していたゾウで、ケナガマンモスほどではないが、寒さに適応した体の仕組みをもっていたとされている。

 マンモスもナウマンゾウもおよそ1~3万年前に絶滅しているが、その理由については諸説あって未解決の課題である。現在、地球は大きな環境変動の時代に入ったと言われている。今生きる私たちが将来の地球環境の変化にどのように対応していかなければならないのか、絶滅した生物を復活させることの意義も含めて、マンモス研究から教えられることは多い。

近藤 洋一(こんどう よういち)

野尻湖ナウマンゾウ博物館館長。1955年東京生まれ、信州大学大学院博士課程終了理学博士。学生時代から野尻湖発掘に携わり、現在野尻湖発掘調査団の事務局を担当。日本各地のナウマンゾウの研究や古型マンモスの研究もすすめている。 共著「最終氷期の自然と人類」「一万人の野尻湖発掘」「野尻湖のナウマンゾウ」など。企画展「マンモス展」古生物学監修。

企画展「マンモス展」-その『生命』は蘇るのか-

2005年「愛・地球博」で700万人が熱狂した「ユカギルマンモス」をはじめ、近年ロシアの永久凍土から発掘された数々の貴重な冷凍標本を世界初公開する、史上最大規模のマンモス展。
会期:2019年6月7日(金)~11月4日(月・休)
会場:日本科学未来館(東京・お台場)

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