椎名誠インタビュー 「いまなぜアイスランドなのか」
北はカナダの北極圏から南は南米最南端のパタゴニアまで、世界の辺境を旅してきた作家の椎名誠さんがこのたび『アイスランド 絶景と幸福の旅へ』を上梓しました。はじめての北欧諸国、しかも、海外への長旅は最後という椎名さんに、アイスランドの旅についてうかがいます(聞き手・編集部)。
――今回なぜ椎名さんはアイスランドへ行こうと思われたのでしょうか。
ぼくがアイスランドを知ったのは世界の冒険探検に関心をもった高校生のときでした。隣にはグリーンランドがあって、実を言うと、グリーンランドが緑のある豊かなところで、アイスランドは氷に閉ざされた島だとしばらく間違えていたんです。そのせいもあって、アイスランドはずっと印象に残っていたんですね。加えて、期せずしてアラスカ、カナダ、ロシアの北極圏を訪れて、こうなったらヨーロッパの北極圏も見てみたいという思いがまず背景にありました。
――背景というと、直接的な動機がほかにあったのですか。
2008年の経済危機でアイスランドの銀行が破たんし、国の存続すら危ぶまれる事態になりました。経済がそれほどの危機になると、いったいどんなことになるんだろうと強烈に興味を持ったんです。おまけに、経済的には大変だったにもかかわらず、アイスランドはいまも昔もさまざまな幸福度の調査では上位です。これはいったいどういうことなのか、と。
――その一方で、アイスランドというと火山や氷河が多く、絶景の国としても知られています。自然や景観への関心もあったのですか。
フィヨルドは見てみたかったです。ぼくは世界のいろんな場所に行きましたが、フィヨルドにはまだ行ったことがなかったので。はたしてどんな自然や地形なのか、そこでは人がどんなふうに暮らしているのだろうかなどに興味がありました。結果的にすごく面白かったです。
――「面白かった」のですか? フィヨルドが。
ええ。フィヨルドは広げた手のひらの指と指のような地形です。指が山でその間が海。指の縁に道路があると考えてみてください。たとえば、人差し指から中指まで行くときは、当然、指先と指先を橋でつなげばあっという間だけれど、橋をかけるには税金がかかるし、自然の景観も壊れてしまう。そうした条件と交通量を計りにかければ橋は必要がありません。ただし、谷が深いため、指の付け根には橋がかかって、その周辺には家が建っていたりする。そういったことをはじめ、人と自然がうまく調和して暮らしているところは興味深かったです。