他にも、大学院生の米原善成が、オオミズナギドリが速く飛んでいる時は追い風の中を、遅い時は向かい風の中を飛んでいるのに気がつき、飛行経路から現場の風向風速を抽出するアルゴリズムを考案した。

 海表面流や海上風は、人工衛星を使って観測されているが、1日に2回しかデータが得られないなど、時空間的な分解能が粗い。それを補う観測手段として、この海鳥を用いる環境計測手法が利用できる。精度を検証したり、実際に気象予報の精度向上に貢献するのかを今後調べていかねばならないが、我々がウミガメや海鳥の生態解明を目的にとってきたデータを大気海洋観測など他の目的にも活かそうとするこれらの試み「Internet of Animals (IoA)」は、大震災から復活しつつある東北から世界へ向けての情報発信として大いに期待されている。

再建された国際沿岸海洋研究センター研究棟(左)とゲストハウス(右)。ドローンで2019年11月に撮影。(写真提供:佐藤克文)
再建された国際沿岸海洋研究センター研究棟(左)とゲストハウス(右)。ドローンで2019年11月に撮影。(写真提供:佐藤克文)

津波の次はコロナ

 津波の直後、幼き娘は調査で長期間出張する父親の留守中に、「お父さんいつ帰ってくるの」と日に何度も尋ねて母親を困らせた。最近では長期出張がめっきり減り、平日すら家に居がちな父親に「次の出張いつ?」と無愛想に尋ねる女子高校生へと成長した姿から、津波後の10年という長さを実感している。

 人生に1度あるかないかの体験をしたつもりでいたが、昨年から始まったコロナ禍は、津波に勝るとも劣らぬ影響を及ぼした。津波後に私や研究室メンバーは千葉県柏市にある大気海洋研究所が本務地となり、普段は関東圏で暮らしている。そんな私たちが地方に調査に出かけていく際は、ウイルスを拡散させぬように細心の注意を払わねばならなくなった。

 昨年は調査シーズン直前に緊急事態宣言が解除されたので、何とか調査を継続できた。今年の夏までにコロナは治まっているだろうか。「何があっても何とかする」。そんな言葉をモットーに、野外調査を継続していきたい。

目指すは永久モニタリングサイト

 この先にはいったい何が待っているのだろうか。岩手から毎年標識を付けてこれまで計600頭のウミガメ亜成体を放流しているが、どこかの砂浜に産卵上陸したという連絡はまだ無い。定年退職するまでの十数年間、1頭でも多くの個体を放流し朗報を待とう。

 オオミズナギドリについても、戸籍台帳ができつつある。誰と誰がどの巣穴で子育てしたかを毎年モニタリングしている。さらに、遺伝子解析によって親子関係まで鑑定できるようになった。雌雄が協力して1羽の雛を巣立ちまで育てるが、約20%の確率で雛と雄の間に遺伝的関係が無い、すなわち“雌の浮気”が発覚した。毎年同じペアで子育てしながら、なぜだか3年連続浮気という謎のオシドリ夫婦もいた。彼らの行く末も是非見届けてみたい。

絵心のある研究室メンバー木下千尋が書いたイラスト。定年後の私の姿とのこと。(画像提供:木下千尋)
絵心のある研究室メンバー木下千尋が書いたイラスト。定年後の私の姿とのこと。(画像提供:木下千尋)

佐藤克文(さとう かつふみ)

1967年、宮城県生まれ。東京大学大気海洋研究所教授。1995年に博士号を取得後、国立極地研究所助手、東京大学大気海洋研究所准教授などを経て2014年より現職。小さな記録装置を動物の体に直接取り付ける「バイオロギング」という手法により、ウミガメやミズナギドリなど、主に海の動物たちの行動や生態を詳しく調べている。著書に『動物たちが教えてくれる 海の中のくらし』 (福音館書店)『サボり上手な動物たち 海の中から新発見!』(岩波書店)など。『バイオロギングで新発見! 動物たちの謎を追え』(あかね書房)では監修者を務めた。バイオロギングについて詳しく紹介している研究室のHPはこちら 。長期間の野外調査を支援するバイオロギング支援基金のクラウドファンディング(「IoA」の詳しい解説も)はこちら

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