宝石をカガクする! 特別展「宝石」 監修者が見どころを解説
宝石はなぜ美しいのか?
宝石にとって美しさが極めて重要なことは間違いありません。この美しさは彩り、輝き、煌めき、という三つの要素で語られますが、それらは光の透過、反射、屈折、散乱、回折などの宝石の光学特性によってうみだされます。
光との相互作用は、密度、硬さや衝撃に対する強さ、安定性など物理特性と同様に、化学結合が決め手となります。日本彩珠宝石研究所、瑞浪鉱物展示館、翡翠原石館などのコレクションを中核に、ラフ(原石)とルース(裸石)の対で構成した色彩豊かで様々な表情を見せる200種に及ぶ宝石が一堂に集まります。宝石の多様性とそれぞれの特徴を、科学的な観点も併せてご堪能いただければ、と思います。
本展のために用意した「宝石色相環」では、色彩や光沢などにより配置した365石から宝石の多様性、類似性を観ることができます。それぞれの石の違いが判るならば、それは一流の宝石鑑定士の資質があるということです。是非、ご自身に潜在する才能を見いだして下さい。また、かつて国立科学博物館にあった「みどり館」の防弾ガラスの中に常設展示されていた、ダイヤモンドやひすいなども、久々のお披露目となります。

美しく輝くルースも、それ自体ではジュエリーにはなりません。自ら輝くだけではなく宝石を引き立てる役割も果たす貴金属の台座に収められることではじめて装身具となるのです。適格なルースの適切な配置にデザインされたセッティングが行われることで、更なる価値が付加され、美麗なジュエリーが仕立てられます。この世界を、ギメルトレーディングとヴァン クリーフ&アーペルの作品に観ていただきます。


古代の人々は宝石をどう使ったのか?
古代の人々は、神秘的な輝きを持つ宝石に「願い」や「祈り」のような宗教的な意味合いを持たせていたと考えられます。この時代、宝石は魔除けや御守りとして身近に置かれ、あるいは身につけるための特別な宝飾品として、指輪やペンダントなどに加工されました。
中世から近世に移行するルネッサンスの時代には、宝石は王侯貴族の「誇り」や権力の象徴として、人々の目にとまりやすいブローチやネックレスに仕立てられました。科学が発達し、技術が革新され、通商も発達し始めたこの時代には、素材となる原石の確保や精緻を極める加工技術の開発も進みました。限られた人々のためだけに存在した宝石は、装飾品の域を超えた歴史的な美術品、文化財として伝承されることになりました。世界的な宝飾芸術コレクションであるアルビオン アート・コレクション、この選りすぐりの至宝から放たれる鮮烈な美は魂を揺さぶります。感性と知性を研ぎ澄ませば、自然と文化の融合の向こうに、美の源泉を確信できるでしょう。


宝石は地球と人類の歴史を考えるきっかけを与えてくれます。本展が、語り継がれて伝統となったものから、近年発見されこれからの可能性を秘めているものまで、さまざまな宝石に親しむきっかけとなり、地球と人類の活動の接点で生まれた「宝石」についてより深く知り愉しむことに役立てば幸いです。
【この記事の写真をもっと見る】ギャラリー:特別展「宝石」の展示品 写真15点
文=宮脇律郎(国立科学博物館地学研究部部長)、諏訪恭一(諏訪貿易株式会社会長)、門馬綱一(国立科学博物館地学研究部研究主幹)、西本昌司(愛知大学教授)
特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」
宝石のすべてがわかる展覧会!多種多様な宝石と、それらを使用した豪華絢爛なジュエリーを一堂に集め、科学的、文化的な切り口から紹介。
会期:2022年2月19日(土)~6月19日(日)
会場:国立科学博物館(東京・上野公園)
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