ただ、テンペはテンペ菌(クモノスカビ)で発酵させていて納豆のような粘りはない。揚げたり炒めたりと、必ず加熱をして食べるもので、チャベのナシクニンに添えられていたのは揚げたテンペを小魚、ピーナッツと甘辛く和えたテンペテリという料理だった。さほどクセもなく、カリカリとして香ばしい。飲酒を禁じるイスラム教徒が多いインドネシアだけれど、テンペテリはつまみになるなあと思いながら、ついポリポリと食べ続けてしまう。

 こうしたインドネシアの代表的な料理も添えられたナシトゥンパン。もとはスラマタンというジャワ島の供食儀礼の料理として発展してきたようだ。スラマタンはお祝い事や、誕生から入学、卒業、就職、引っ越し、葬送にいたるまで人生の節目において、隣人や知人を集めてともに安寧の祈りを捧げてもらい、食事を提供するというイスラム式の儀礼だ。

 ナシトゥンパンはこのスラマタンでよくつくられる料理のひとつ。それが全国的に広がってより身近になり、ハートやボロブドゥルのかたちがつくられるようになったのだろう。試しに画像検索してみると、10種類ものおかずがナシトゥンパンを囲んでいたり、器用に人形をかたどったもの、黄色ではなく緑や紫のものまであっておもしろい。もはやアートです。

「ナシトゥンパンはまずイベントの主役が山の頂上部分を取り、主賓に渡すのが習わし。そうやって『来てくれてありがとう』という感謝の気持ちを表します。それからみんなで取り分けるんです」と大平さん。お店でもそんな光景をよく見るという。

 インドネシアでは普段は家族で食事をとることにこだわっていないらしい。夜は一緒だが朝、昼は母親がつくり置きしたものを好きな時に好きな場所で食べる文化なのだという。「だからこそ一緒に食べる儀礼をより大事にするのかもしれませんね」と長くインドネシア文化に関わってきた大平さんがいう。

テンペと小魚、ピーナッツを和えたテンペテリ。テンペは衣をつけて揚げたり、ココナッツカレーなどの具材にしたりと食べ方はさまざま。2018年にはジャワ島の西ジャワ州にテンペの歴史やつくり方が学べるテンペランドがオープンした
[画像をタップでギャラリー表示]

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る