第85回 具材は挟んで載せて ベネズエラのアレパ
もともとベネズエラは農業国だったが、世界最大ともいわれる石油資源が発見されたことで石油に依存した社会になり、農業が衰退して食料を輸入に頼るようになった。オイルマネーに支えられたベネズエラは中南米有数の豊かさを誇り、関さんの話では日本よりも早く小型の携帯電話が普及していたそうだ。
しかし、一方では貧富の差が拡大していたため、1999年に大統領に就任したウゴ・チャベスが改革に着手。自身の権限を強めて民間企業、農地の国有化や価格統制といった経済介入を行った結果、皮肉にも市場経済は急速に弱まっていった。
さらに、チャベスも、そして彼から引き継いだニコラス・マドゥロ現大統領も反米主義を掲げているため、アメリカが厳しい経済制裁を科して物資は不足。原油価格の急落も相まって、国の経済が破綻してしまった。国民の多くはハイパーインフレと物資不足で食糧を買うことも難しく、政府の配給を頼りにしているという。
「アメリカでつくられているP.A.N.の粉もインフレや輸入規制の影響でなかなか手に入らないそうです。だから、メキシコ産などの似た商品でつくったりするけれど硬さが違ったりして美味しくないって。この前、おかあさんに電話をしたら、もう3カ月くらいアレパを食べていないって言ってました。だから、このアレパの粉は宝物なの」
経済危機にともなう政情不安のため、10年はベネズエラに帰っていないというジャネットさん。帰れたら何が食べたいか、と聞くと「やっぱりアレパが食べたいね」と笑う。その言葉には「当たり前だった日常が戻ってくるように」という祈りが込められているように感じた。

日本ベネズエラ協会
ホームページ:http://www.nihon-venezuela.jp
中川明紀(なかがわ あき)
講談社で書籍、隔月誌、週刊誌の編集に携わったのち、2013年よりライターとして活動をスタート。何事も経験がモットーで暇さえあれば国内外を歩いて回る。思い出の味はスリランカで現地の友人と出かけたピクニックのお弁当とおばあちゃんのお雑煮
「世界魂食紀行 ソウルフード巡礼の旅」最新記事
バックナンバー一覧へ- 最終回 神奈川いちょう団地でベトナム料理を食べ歩き
- 第85回 具材は挟んで載せて ベネズエラのアレパ
- 第84回 パキスタンのおふくろの味、アチャリカレー
- 第83回 労働を忘れ心を整えるユダヤ教安息日の食卓
- 第82回 夜通し続くルーマニアの結婚式、招待客の腹を満たす「サルマーレ」を食べてみた
- 第81回 ビールが進む!「種」を使ったソースでつくる、アフリカ・トーゴの国民食とは
- 第80回 キューバの豆料理から見えてきた、社会主義国の食卓事情
- 第79回 サウナ以上に愛すべき存在?!フィンランドの国民食
- 第78回 幸福を招くインドネシアの「黄色いごはん」
- 第77回 アルゼンチンの英雄、メッシが愛する料理「ミラネッサ」とは?