第72回 愛と知恵が詰まったパレスチナおふくろの味

 スドゥキさんの話を聞きながら思い出したのは我が家の肉じゃがだ。肉じゃがの肉といえば牛肉? それとも豚肉? 一般的に西日本は牛で東日本は豚だといわれているが、我が家の肉じゃがは鶏肉だった(ちなみに両親ともに関東)。しかも、醤油、酒、みりんに砂糖で甘めに煮ることが多い中、この鶏肉の肉じゃがはショウガがたっぷり入っていてやや辛め。

 だから私はけっこう大きくなるまで肉じゃがといえば「鶏肉とジャガイモをショウガで煮た料理」だと思っていて、肉じゃがが甘くてしかも鶏肉ではないと知った時には衝撃を受けたものである。そして、母に問うと「あなたたち子どもが鶏肉好きだったからよ」と笑っていた。

 きっとスドゥキさんの家のマンサフや、我が家の肉じゃがのような料理はどの家庭にもあるだろう。我が子のために母が知恵をしぼってつくる料理、それもまたソウルフードなのだ。スドゥキさんたち兄弟が大きな皿に盛られた鶏肉のマンサフを囲み、美味しそうに食べている姿がぼんやりと浮かんでくる。

「母の特製マンサフは店の一番の人気メニューなんですよ」とスドゥキさん。外務省によると在日パレスチナ人は全国に70人(2017年12月時点)しかいない。店には他国のアラブ人もくるが、最も多いのは日本人でリピーター率も高いという。きっと客はみなスドゥキさんがつくる母の味を身近に感じているのだろう。私もその一人。ヨーグルトのマンサフは事前予約が必要なので、今度は友人たちと2つのマンサフを囲みにくるつもりだ。そして、今日の夜は久々に母親直伝の肉じゃがをつくろうかな、と思っている。

店は2011年にオープン。内装業の経験を活かして店の内装はスドゥキさん自ら手掛けたという
店は2011年にオープン。内装業の経験を活かして店の内装はスドゥキさん自ら手掛けたという
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パレスチナ料理 Bisan(ビサン)
東京都北区中十条2-21-1
電話:03-5948-5711
ホームページ:http://bisan.biz/

中川明紀(なかがわ あき)

講談社で書籍、隔月誌、週刊誌の編集に携わったのち、2013年よりライターとして活動をスタート。何事も経験がモットーで暇さえあれば国内外を歩いて回る。思い出の味はスリランカで現地の友人と出かけたピクニックのお弁当とおばあちゃんのお雑煮