第72回 愛と知恵が詰まったパレスチナおふくろの味
「ジャミードという乾燥ヨーグルトを溶かしたソースで煮込んだラム肉を、スパイスで炊いたライスにかけています。ライスの下にはシュラクというクレープのように薄いパンを敷き詰めるんですよ」
パレスチナをはじめ周辺国で食べられ、ヨルダンでも国民的な料理とされているマンサフは、アラビア半島の砂漠地帯に住む民族「ベドウィン」の料理の流れを汲んでいるといわれる。遊牧民である彼らにとって羊も乳製品であるヨーグルトも欠かせない食材だ。
「マンサフとは『大きな皿』という意味。パレスチナではお祝いの時によく食べます。結婚式の際には必ずといっていいほど出席者に振る舞われますが、パレスチナでは町中の人が参列するので1500人以上集まることも珍しくない。だからつくるのが大変なんです。今は専門の業者が調理しているけれど、羊も40頭くらい用意するんですよ。できあがったマンサフは大皿に盛って8人くらいで囲み、一緒に食べるんです」
1500人とはすごい規模だが、ハレの日に料理をみんなで囲むのは幸せを分かち合うようでいいなあ、と思う。しかし、そうすると私が食べたマンサフは何なのか。
「これは僕の実家、マンスール家のマンサフなんです」
私の問いにそう答えて、スドゥキさんは相好を崩した。「僕は11人兄弟と人数が多く家も貧しかったので、高価なラム肉はなかなか食べられませんでした。そこで僕らがマンサフを食べたいというと、お母さんは鶏肉のマンサフをつくってくれたんです。鶏肉をより美味しく食べられるようにとヨーグルトよりもスパイスを多めに使って。兄弟はみんなお母さんのマンサフが大好きで月に3回くらい食べていましたよ」
「世界魂食紀行 ソウルフード巡礼の旅」最新記事
バックナンバー一覧へ- 最終回 神奈川いちょう団地でベトナム料理を食べ歩き
- 第85回 具材は挟んで載せて ベネズエラのアレパ
- 第84回 パキスタンのおふくろの味、アチャリカレー
- 第83回 労働を忘れ心を整えるユダヤ教安息日の食卓
- 第82回 夜通し続くルーマニアの結婚式、招待客の腹を満たす「サルマーレ」を食べてみた
- 第81回 ビールが進む!「種」を使ったソースでつくる、アフリカ・トーゴの国民食とは
- 第80回 キューバの豆料理から見えてきた、社会主義国の食卓事情
- 第79回 サウナ以上に愛すべき存在?!フィンランドの国民食
- 第78回 幸福を招くインドネシアの「黄色いごはん」
- 第77回 アルゼンチンの英雄、メッシが愛する料理「ミラネッサ」とは?