第72回 愛と知恵が詰まったパレスチナおふくろの味
鮮やかな青い外壁に料理の写真が並ぶ賑やかな看板。東京都北区にあるこの店を見つけたのは、前回のバングラデシュ料理店(第71回参照)を訪ねた帰りのこと。都内有数の活気ある商店街といわれる十条銀座商店街に寄っていこうと、JR埼京線十条駅方面に向かって歩いていた時である。
看板には「パレスチナ料理 ビサン」の文字。どうやら、中東にあるパレスチナのレストランのようだ。地理的に近いレバノンやエジプトの料理は食べたことがあるけれど、パレスチナは未体験。しかも、確認できた範囲ではパレスチナ料理の店は東京に2軒しかない。どのような料理、そしてソウルフードに出会えるのか、後日食べにいくことにした。
「うちの料理はどれもパレスチナの家庭料理です。だからパレスチナ人はもちろん、アラブの人はみんな、どれを食べても懐かしく感じると思いますよ」
パレスチナのソウルフードについて聞いた私にそう答えてくれたのはマンスール・スドゥキさん。パレスチナ出身の、この店のオーナーシェフだ。メニューを見るとケバブのほか、ひよこ豆のペーストであるホンムス(フムスやホモスとも呼ばれる)、日本でいうコロッケのようなファラフェルといったアラブ地域でおなじみの料理も並んでいる。スドゥキさんの話ではイスラム教徒が90%以上を占めるパレスチナの料理はハラールフード(イスラム教の戒律で許された食べ物のこと)であり、レバノンやヨルダンといった周囲のアラブ諸国の料理と大きな違いはないらしい。
「でも、料理って家庭ごとに違うものですからね」とスドゥキさん。それならば、パレスチナで特によく食べられているものでスドゥキさん自身がソウルフードだと思っている料理をいただこう。そう注文するとスドゥキさんはキッチンに入り、「ジャッ、ジャッ」といい音を立てながら何かを炒め始めた。やがて、湯気が立ち上る一つの料理が私の前に出てきた。
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