シンガラとサモサを食べ比べながら話を聞いていると、またお客さんがやってきた。日本語学校に通うバングラデシュ人とネパール人の学生だ。「バングラデシュ料理を食べたことがないというネパールの友人に故郷の味を食べてもらおうと思ってきたんです」とバングラデシュの学生がいう。

 学生はカウサルさんやシェフたちと会話を交わしながら料理をオーダーしていく。言葉はわからないが、何を食べるといいか相談しているようだ。この店の料理の多くは価格の設定が安い。学生にはうれしいだろうな、と彼らを見ながら思う。

 カウサルさんも、日本語学校に通う学生として2006年に来日したという。東十条に来たのは住んでいたバングラデシュ人を頼ってのことだ。「この町にバングラデシュ人が住み始めたのは30年くらい前だと聞いています。彼らを頼って少しずつ増えていき、いまは500人くらいのバングラデシュ人が暮らしています」

 学生のほか、自動車の輸入など車関連の仕事をしている人も多く、カウサルさんもその一人だ。その傍らで店をオープンしたのは2016年。「東十条界隈に食材店はいくつかあるけれど、レストランがなかったので始めたんです」

 調べてみると、以前は飲食店もあったようだ。東日本大震災で帰国者が相次いだこともあったが、最近はまたバングラデシュ人が増えているとカウサルさんはいう。「家でつくれる人はいいけれど、みんな仕事も忙しいでしょう。だから店に食べに集まってくるんですよ」

 店にいる間もガラス越しに何人もの南アジア人が行き交い、時にはドアを開けてカウサルさんたちと挨拶を交わしていた。思わず日本であることを忘れてしまいそうになる。ここはバングラデシュ人たちの拠り所なのだ。いや、インド人やネパール人もか。

 南アジアの中で比較するとバングラデシュの料理は魚や野菜を多く使い、味もマイルドではあるらしい。しかし、料理の伝来や発展より後に今の国の形が定まったことを考えると、料理に国境はあまり関係ないのかもしれない。2人の学生がハイデラーバードのビリヤニを美味しそうに食べている姿をみて、そう感じた。

ネパール(手前)とバングラデシュの学生さん。カウサルさんやシェフも交えて、テレビで流れているボリウッドスターの話で盛り上がっていた
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インド&バングラレストラン タイガー
東京都北区東十条4-4-9
電話:03-6903-0121

 

中川明紀(なかがわ あき)

講談社で書籍、隔月誌、週刊誌の編集に携わったのち、2013年よりライターとして活動をスタート。何事も経験がモットーで暇さえあれば国内外を歩いて回る。思い出の味はスリランカで現地の友人と出かけたピクニックのお弁当とおばあちゃんのお雑煮

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