第71回 「東十条」は南アジアの交差点

「ビリヤニはみんなよく食べていますね」

 簡単にいえばビリヤニは炊き込みご飯のこと。バングラデシュは「米と魚の国」と呼ばれていて、米の生産量世界第4位、一人当たりの年間消費量は170キロほどで世界トップクラスを誇る。日本人の一人当たりの年間消費量は約55キロだというから、日本人の3倍以上の米を食べていることになる。ちなみに魚は輸出品としての需要が高く、近年はやや高級になっているようだ。

 いただいたのは牛肉のビリヤニ。香辛料を使っているからだろうか、黄色い米の中に角切りの牛肉がゴロゴロと入っていて、上には生タマネギ、キュウリ、トマトなどの生野菜がのっている。スプーンですくって口に入れると香辛料の風味が広がった。ピリ辛だが牛肉の旨みもしみ込んでいて味わい深く、キュウリやトマトがさっぱり感をプラスする。ときおり訪れる生タマネギの辛味が強烈で涙が出そうになるが、不思議とマッチしていてついつい箸が進んでしまう。あ、スプーンか。

「それはインドのハイデラーバードのビリヤニなんですよ」

 店に入ってきた男性が私に向かっていった。バングラデシュ人のカウサル・イマムさんで、この店のオーナーだという。そうか、インドのビリヤニか……って、えっ! バングラデシュじゃないの!? 「ビリヤニは国ごと、地域ごとに違うんですよ」とカウサルさん。それ、早くいってよ……。

 諸説あるが、ビリヤニはムガル帝国時代に発展した料理だといわれている。ムガル帝国とは16世紀初めにアフガニスタンから侵攻したイスラム教徒が北インドに建国した国家。全盛期にはインドのほぼ全域を支配したが、やがて欧州の侵攻などを受けて19世紀に滅亡した。さらに第二次世界大戦後、パキスタンがイスラム国家としてインドから分離・独立。バングラデシュはそのパキスタンから1971年に独立した国家である。

 つまり、いわゆる“カレー”に代表される南アジアの料理はよく似ていて、その中でビリヤニはイスラム系の料理とされる。「だから、ビリヤニの肉は羊や鶏肉のほかヒンドゥー教徒が食さない牛肉も使いますが、イスラム教で禁じられている豚肉は用いません」とカウサルさん。そのほか、一般的には香りに特徴があるバスマティライスを使うという。

ハイデラーバードのビリヤニ。インドではヨーグルトをかけて食べるのが一般的だが、バングラデシュではビリヤニにサラダとゆで卵を添えることが多い。このビリヤニ、そこはバングラ風?
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