店主の名前はインナ・キムさん。偶然にもツーリズムEXPOで会った朝鮮系キルギス人の女性と同姓同名だった。そう、こちらのインナさんも朝鮮系なのだ。旅行会社のインナさんの話では、キルギスの人口の3~5%が朝鮮系キルギス人だという。
「ベシュバルマクは羊のお肉が多いけれど、今日は羊と牛肉を半々。水にお肉とジャガイモ、玉ネギ、ニンジン、それからブイヨンを入れて、お肉がやわらかくなるまで4時間ほど煮込みます」と話しながら、インナさんは力を込めて麺を練っている。どの家も麺は手作りで、それぞれに好みの厚さがあるらしい。麺棒で薄く伸ばした麺を、インナさんが包丁で切っていく。
でも、ちょっと待て。“小さくて四角い麺”と聞いていたので、勝手にきしめんを想像していたのだが、幅が10センチくらいあるじゃないか。この麺が特別太いわけでもないみたいだし……これを小さいというカザフスタンの麺はどれだけ大きいんだろうか。
そんなことを考えているうちに、インナさんは肉や野菜の煮汁で麺を茹で始めた。ここからは早い。3~4分経ったところで釜揚げにし、煮込んだ肉や野菜をのせる。肉は細くさくのがポイントだ。「煮汁はスープにします」とインナさん。ベシュバルマクが完成した。
平べったい麺の上に肉と野菜がゴロゴロのったベシュバルマクは何とも豪快。しかし、それは見た目だけではないようだ。「ベシュバルマクはキルギス語で『五本の指』という意味。本来、手づかみで食べることからその名がついたのです。いまの家庭ではフォークを使いますが、大切なお客さんが来たときには伝統的に手で食べたりもします。みんな、手で食べたほうが美味しいっていいますよ」