第55回 豪快に手づかみで食べる、「五本の指」なるキルギスの伝統料理
実はインナさんは朝鮮系のキルギス人。家ではいわゆる韓国料理が主体で、キルギス料理はそれほど食べないという。ただ、ロシア系やウズベク系など多数の民族が住むキルギスで、インナさんたち朝鮮系も含めて、どの民族も共通してよく食べているキルギスの伝統料理がベシュバルマクなのだそうだ。
「麺の上に茹でた羊や牛、馬の肉をのせるシンプルな料理です」とインナさん。なるほど、家畜の肉と保存がきく小麦粉なら遊牧民の料理に適している。「ジャガイモなどの野菜を入れたり、麺のかたちが異なったり、地域によって違いはあります。パーティーや来客の際によく食べる料理なんですが、尊敬するお客さんが来たときはキルギスで最も高級品の馬肉を使いますね。美味しいんですよ」
ちなみに、お隣のカザフスタンとは食文化が近いそうだ。「カザフスタンでもベシュバルマクはよく食べられています。キルギスの麺は小さい四角形が多いけれど、カザフは大きくて丸いのが一般的ですね」と言うのは、インナさんの通訳をしてくれたカザフスタンからの留学生ジョルダヤコヴァ・サウレさん。2人は両国共通の公用語であるロシア語で話していた。
しかし、ここまで聞いたらベシュバルマクが食べてみたくなる。旅行会社の人に尋ねると、埼玉の蕨駅のそばに一軒だけキルギス料理を出すお店があるというので、早速出かけることにした。
お店のドアを開けると、おいしそうな香りが漂ってきた。キルギスとロシア料理のお店「インナカリンカ」の店主が料理の準備をしているところだった。ベシュバルマクは予約が必要(4人前~)だというので事前に相談をした際、特別につくっているところを見せてもらうことになっていたのだ。
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