「アルバハラの実ですね。パキスタンのビリヤニには欠かせません。カレーとライスを重ねる時に種付きのまま入れるんです」
よく見ると、ごはんに紛れて黒っぽい実があった。プラムの一種のようで、ジャベイドさんがビリヤニに入れる前のアルバハラを味見させてくれた。ドライフルーツの状態で、凝縮された甘みの中にしっかりと酸味が残る。これがビリヤニの味に奥行きを生んでいるんだ。
「これも食べてみて」
そう言って、ザヒットさんは私の前に小皿を置いた。ニンジンなどの野菜をカレーで合えたお惣菜のように見えるが……。
「アチャリです」
パキスタンをはじめ南インドでよく食べられている野菜の漬け物だ(アチャールともいう)。香辛料や油、酢などで漬けるそうで、スパイシーだが酸味もけっこうある。塩気も強いので、日本の漬け物と同様に白米のお供にもなりそうだ。
「アチャリはこのまま食べたりもしますが、カレーに入れることが多い。とても日常的な家庭料理でうちの店でも大人気です」
そう聞いて、マトンとアチャリのカレー「マトンアチャリ」もいただくことにした。やわらかく煮込まれたマトンを口に入れる。アチャリの酸味が肉の旨みをよりふくよかにしていて、とても味わい深い。そして、思ったほど辛くはなく風味が豊かで、なんだかやさしい感じがする。そう言うと、ザヒットさんはにっこり笑った。
「うちのカレーはいろいろな種類のスパイスを使っています。基本的なものだけでもクミンシード、カルダモン、ナツメグ、フェヌグリークシードなど10種類以上。辛さもチリだけでなく、さまざまなスパイスを組み合わせて出すからそれほど刺激を感じないんですよ」
だからこんなに風味が豊かなのか。スパイスをたくさん使うのはザヒットさんの故郷、パンジャーブ州の料理の特徴であるようだ。私が感心しているところに、ザヒットさんはさらに話を続ける。