「人気があるのはビリヤニですね」
メニューを見つめる私にそう教えてくれたのは、店主のザヒット・ジャベイドさん。パキスタンのパンジャーブ州にある都市、ファイサラーバードの出身で、日本人向けにアレンジせず、本国の味を提供することがこだわりだ。
「ビリヤニは大事な日に欠かせない料理です。結婚式などのお祝いの席はもちろんのこと、イフタールでも毎日のように食卓に出ます」
イフタールとは日の出から日没まで飲食を断つラマダン(断食月)の、日没後の最初の食事のことだ。また、モスクで集団礼拝する金曜は多くのパキスタン人が来店するため、通常はチキンのビリヤニだけのところ、より豪華なマトンビリヤニも出しているという。
ビリヤニは東京・東十条のバングラデシュ料理店でも食べたなあ(第71回参照)。そうつぶやくと、ザヒットさんが目を見開いて言った。
「パキスタンとバングラデシュのビリヤニは全然違うよ!」
目力が強い。「それなら、ぜひ食べてみたい」と、チキンビリヤニを注文する。しばらくして、スパイスの芳醇な香りとともに、大皿いっぱいのビリヤニが運ばれてきた。一般的な中華料理店のチャーハンの2倍はあるように見えるが、これが一人分だという。
しかし、量の多さ以上に驚いたのが彩りだ。白、黄色、橙色とさまざまな色をしたコメが混ざり合い、何とも鮮やかなのである。
「バングラデシュのビリヤニはライスと香辛料で煮込んだ肉を一緒に炊き込むけれど、パキスタンでは、ライスはライスだけでボイルして、肉は肉だけで香辛料を使って煮込む。そのライスといわば肉のカレーを何層にも重ねてトウガラシなどのスパイスをまぶし、スチームで仕上げるんですよ。10分くらいスチームすることでカレーがライスに浸透していくんです」
へえー、それでこんな色合いになるのか。さて、お味はというと……スチームしているからか、ごはんはしっとりとしてカレーの旨みが染み込んでいる。鶏肉もやわらかくてみずみずしい。けっこうスパイスが効いていて辛いのだが、時おりやさしい甘みがふわっと訪れて、複雑な味わいが病みつきになる。なんだろう、この甘み。