以前、「ワラビスタン」と呼ばれる場所を訪れたことがある。埼玉県の蕨駅周辺にクルド人が多く住むことから、親しみを込めてそう呼ばれたりするらしい(第52回参照)。「スタン」とはペルシャ語で「土地」を意味する。実は、埼玉にはもう一つ、「スタン」の愛称をもつ場所がある。

 八潮市の「ヤシオスタン」だ。パキスタン人が集うことが、その理由だという。

 もともと、八潮市とその周辺に中古車のオークション会場が点在していたことからパキスタン人が集まるようになった。日本製の中古車は質がよく、世界各国に輸出されている。南アジアのパキスタンでも人気が高く、日本に住むパキスタン人の多くが中古車関連の仕事に携わっているそうだ。そういえば、東京・渋谷区の東京ジャーミイで会ったパキスタンの方も車関連の仕事をしていた(第29回参照)

 しかし、八潮市に住むパキスタン人は現在150人ほど。決して多くはないのに、なぜ「ヤシオスタン」なのだろうか。謎を探るべく、私は秋葉原からつくばエクスプレスで約20分の八潮駅に降り立った。駅から2キロほど北上した八潮市役所周辺にその理由があるらしい。散歩がてら歩いて向かうことにした。

 市役所までの道は住宅と会社や倉庫が混在する、首都圏郊外によく見られる町並みだ。まだ暑さが残る日だったので、歩いたことを若干後悔しながら汗だくになって北に進む。ようやく市役所入口の交差点に差し掛かると、緑地に白い三日月と星が描かれたパキスタンの国旗が見えた。「おお!」と期待に胸が高鳴る。

 どうやらレストランのようだが、まずは周辺を歩いてみることにした。すると、すぐそばに別のパキスタン料理の店を発見。結局、市役所周辺には確認できただけでも4軒のパキスタン系の店があった。飲食店街でもこんなに集中しているところは珍しい。どうやら、八潮市内にモスクがあることが理由の一つにあるようだ。パキスタンはイスラム教が国教である。

 もちろん、せっかく来たのだからソウルフードを食べたい。私は最初に見つけた「カラチの空」に入った。この店を選んだのは、入口の装飾が南アジアでよく見るデコトラを彷彿とさせたからだ。ここがヤシオスタンと呼ばれるきっかけとなったということは、この時はまだ知らなかった。

「カラチの空」の装飾は店主のザヒット・ジャベイドさん自身が行った。パキスタン・イスラーム共和国大使館の職員も訪れるという
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