第84回 パキスタンのおふくろの味、アチャリカレー

 手掛けた店は好調だった。しかし、20年以上の時を日本で過ごしたザヒットさんは、次第に日本を懐かしく思うようになった。そして、それまでの日本にはなかった本格的なパキスタン料理の店を開こうと決心して、戻ってきたのだ。

「カラチの空は友人を介して知りました。埼玉にはほとんど来たことがなかったけれど、八潮とその周辺にパキスタン人が多いことは聞いていた。でも、実際に来てみるとメニューが数種類しかなく、経営にも行き詰まっていました」

 他店との交流も少なかったらしい。「カラチの空」を買い取るかたちで店主となったザヒットさんは、奥さんが喜ぶような本格的なレストランをつくろうと決意した。しかし、店名はそのまま残した。そこにはザヒットさんの願いが込められていた。

「以前は、お客さんはみんなカラチの人。僕の故郷の出身者は一人もいませんでした。同じパキスタン人なのに出身地ごとにグループができていて仲がよくなかったんです。東京や横浜に住むパキスタン人との交流もほとんどなかった。僕はそれが嫌だったので、カラチの人もファイサラーバードの人も地域を超えて交流できる場所にしようと、名前を残したんですよ」

 ザヒットさんの魂が込められた味は口コミで広がり、市外、県外に住むパキスタン人も集うようになった。その噂がカレー好きな日本人を中心に広がり、いつしかヤシオスタンの愛称がついたようである。

 カラチもファイサラーバードも、そして日本も空はつながっている。本場の味を堪能して店を出た私は、青く澄んだ空を見上げた。

パンジャーブ州の都市ラホールにあるバードシャーヒー・モスクやデコトラの写真が飾られた賑やかな「カラチの空」の店内
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カラチの空
埼玉県八潮市中央1-7-11 三木ビル1F
電話:048-933-9888
ホームページ:https://www.yashio-karachinosora.com/

中川明紀(なかがわ あき)

講談社で書籍、隔月誌、週刊誌の編集に携わったのち、2013年よりライターとして活動をスタート。何事も経験がモットーで暇さえあれば国内外を歩いて回る。思い出の味はスリランカで現地の友人と出かけたピクニックのお弁当とおばあちゃんのお雑煮