第83回 労働を忘れ心を整えるユダヤ教安息日の食卓
テーブルいっぱいに並ぶ料理を食べながら、会話や笑い声が絶えない。やがて、陽気に歌を歌い出した。最初は「テレビもスマホも見られないなんて何をしていいのやら」と思ったが、心穏やかで豊かな時が流れている。彼らにとってシャバットは心を整える一日なのだろう。
「さあ、これも飲んで」
上機嫌なビンヨミンさんが注いでくれたのは岩手の酒蔵「南部美人」の梅酒だった。なんと、この梅酒もコーシャだ。ビンヨミンさんが日本に来たのは結婚して間もなくの1998年。日本に住むユダヤ人、来日するユダヤ人の拠り所を提供することが目的だったが、当時の日本にはコーシャフードがほとんどなく、野菜や果物を食べてしのいでいたという。
一方で、活動の一環として日本社会に貢献したいとも思っていた。厳正な審査のもとで認証されたコーシャフードは高品質で地球環境にも配慮したエシカルフードとして、欧米では宗教に関係なく需要が高まっている。コーシャ認証マークは良質な食品である証として海外に売り出すときに大きな強みとなるのだ。
「私たちが食べられるものを増やすため、そして日本の農業や食品産業の発展のために、日本の食品にコーシャの認証をする活動を始めたんです」とビンヨミンさんは言う。さらに、東日本大震災の際も積極的なボランティア活動を行ったビンヨミンさんは、日本の政府からもラビとしての活動を認められている。
世界に約1400万人いるといわれるユダヤ人は、イスラエルのみならず今も世界各地に居住している。もちろん、他の宗教と同じように、すべてのユダヤ人が教えを厳格に守っているわけではないが、コーシャやシャバットはユダヤ人の文化を支える大きな柱になっているのだろう。そんなことを考えながら、日本のお酒が好きだというビンヨミンさんと梅酒で乾杯した。

コーシャジャパン株式会社
ホームページ:https://kosherjapan.co.jp/
中川明紀(なかがわ あき)
講談社で書籍、隔月誌、週刊誌の編集に携わったのち、2013年よりライターとして活動をスタート。何事も経験がモットーで暇さえあれば国内外を歩いて回る。思い出の味はスリランカで現地の友人と出かけたピクニックのお弁当とおばあちゃんのお雑煮
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