第69回 モロッコの金曜日は“クスクスの日”

ヒシャムさんは中西部の港湾都市・カサブランカ出身。日本文化に興味を持ち、20年以上前に留学生として来日
[画像のクリックで拡大表示]

 イスラム教を国教とするモロッコでは金曜は特別な日。正午の礼拝は特に重要とされ、健常な成人男性はモスクに集合する義務がある(女性の集合は義務ではない)。そして、厳粛な祈りを終えたあと、家に家族が集まって食卓を囲むのだという。

「家族で食べるクスクスをつくるために、母親は朝の9時くらいから準備を始めます。セモリナ粉や大麦の粉に水を含ませ、小さな粒になるように丸める作業はすごく大変なんです」

 出来上がったクスクスは専用の鍋で調理する。2つの鍋を二段に積み重ねたもので上の鍋底には小さな穴がいくつも開いており、下の鍋で野菜や肉を煮込み、その上に重ねた鍋にクスクスを入れて、下の鍋から出る蒸気で蒸すのだそうだ。蒸し上がったら一枚の大皿に盛って煮込みをかける。最近は市販のクスクスを使う家庭も多いが、粉からつくると優に3時間はかかるという。

「この大皿にのせたクスクスを家族で囲み、それぞれ右手を使って食べるんです。そして、最近の出来事や考えていることなどいろいろな話をする。とても大切な時間なんです」

 クスクスのほかには飲み物だけ。お肉も野菜もたっぷりだから、これだけで十分なのだとヒシャムさんはいう。そして、ゆっくり時間をかけて食べ終えたらまた職場や学校に戻るのだそうだ。宗教は異なるが、イタリア(第62回参照)やスロベニア(第14回参照)の話の際に出た欧州の「サンデーランチ」の風習にも似ている。

 さらに、「このほかに、クスクスは日本でいう葬儀の時にも食べますよ」とヒシャムさん。そういえば、ヒシャムさんの友人も「お祝いの時にはあまり食べない」と言っていた。「誰かが亡くなった家の人は悲しいし、慌ただしいからなかなか料理を用意する余裕がないでしょう。だから、近所の人が集まってクスクスをつくり弔問客などに出すんですよ」