第69回 モロッコの金曜日は“クスクスの日”

「クスクスも国民的な料理ですが、モロッコではタジンのように毎日は食べません。毎週、金曜日のお昼に食べる料理なんですよ」とヒシャムさん。隣にいたヒシャムさんの友人もうなずきながら話してくれた。「あとは特別な日。ただ、今日はレセプションなので伝統料理として出しているけれど、結婚式などお祝いの日にはあまり食べないですね」。

 しかも、タジンほど料理の幅がないらしい。フランス辺りではサラダ感覚で食べられているから日常的なものだと思っていたが、モロッコでは少し特別なようだ。その理由はヒシャムさんのお店で料理をいただきながら教えてもらった。

「もちろん、魚介のクスクスなどいろいろあるんですが『7種類の野菜のクスクス』が伝統的で、最もよく食べます。7種とはカボチャ、ニンジン、大根、キャベツ、タマネギ、トマト、ズッキーニ。それにラムか牛の肉とひよこ豆も加えてつくるんです」

 7種は必ずしも決まりではないようでカブや青唐辛子を使うこともあるし、ひよこ豆だけでなくそら豆を入れることもあるらしい。お店でいただいたのは野菜とそら豆のクスクスで肉は入っていなかったが、野菜の何とも味わい深いこと。よく煮込まれてふくよかなのに程よく芯が残っていて歯ごたえも小気味いい。

 クスクスにも驚いた。もちもちとした食感で甘みも強い。ヒシャムさんによると、クスクスは主にパスタの原料であるセモリナ粉からつくるものと、大麦からつくるものがあるという。日本で口にするのはセモリナ粉のものが多いようだが、ヒシャムさんのお店では大麦の全粒粉のクスクスを使っている。「美味しいし、食物繊維が豊富で健康にもいいから」とヒシャムさんはいう。

 しかし、なぜ金曜日なのか。そう尋ねる私に、ヒシャムさんはこう答えた。「つくるのに時間がかかるし、みんなで食べる料理だからかな」

野菜のクスクス。タマネギにコリアンダー、ショウガ、塩コショウで味を調えてとろとろになるまで煮込み、さらにオリーブオイルとトマトペーストを加えたスープで野菜を煮込んでいるという
[画像のクリックで拡大表示]
取り分けたクスクス。モロッコ料理はさほど辛くないそうで、辛くしたい場合はどの家庭にも必ずあるという辛味調味料ハリッサを使う。ハリッサはチュニジアにもあるが、モロッコのほうがマイルドらしい
[画像のクリックで拡大表示]