第69回 モロッコの金曜日は“クスクスの日”
「モロッコ料理はオリーブオイルをよく使いますからね。タジンは週に4~5回食べるとても身近な料理で種類も豊富。南は野菜、山側は豆、海側は魚のタジンが多いなど、特産物の違いによって多少の差はあるかもしれませんが、基本的にどの家庭もその時に旬で新鮮な食材を使ってつくっていると思いますよ」
調理法的には蒸し料理に近いけれど、ヒシャムさんは「煮込む」というから和食でいう煮物のような感覚かもしれない。ただ、お祝いや特別な儀式の時に食べるタジンもあるという。レセプションにもそのタジンが供されていた。
「お肉とドライフルーツのタジンです。今日は牛肉ですが、ラム肉のほうが一般的。お肉とプルーンやイチジクなどのドライフルーツと一緒に煮込んだ、ちょっと甘いタジンなんですよ」
見れば肉の上にプルーンやレーズンがたっぷりのっているではないか。「甘い肉かあ……」と恐る恐る口に入れると、おやっ、甘くない。いや、確かに甘いのだがその甘さが肉の味に深みを与えている。さらにフルーツが本来持つ酸味とシナモンなどのスパイスが絶妙で、飲み込んだ後に心地よい余韻を残す。そして、フォークだけでスッと切れる肉のやわらかさ。素材のうま味を逃がさずに煮込むタジン鍋だからこそ、この味が生まれるのかもしれない。
「スパイスもモロッコ料理には欠かせません。例えば、クミンは魚料理には使うけれどチキンには合わないなど、スパイスは食材との相性や使う分量によって料理の完成度を変えてしまうから、すごく重要なんですよ」
タジンの横にはクスクスを使った料理も並んでいた。世界最小のパスタと言われるクスクスは、マグレブと称されるモロッコを含むアフリカ北西部で先史時代から食べられていたといわれている。中東やフランス、イタリアなどの欧州でも食され、タジンと同様に最近は日本でも知られるようになった。
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