第68回 捏ねて楽しいチベット族の国民食
そうなると気になってくるのがヤクの肉やバターの味。ツァンパ団子にヤクの乾燥チーズが入っていたがさほど主張はしていなかった。聞けば、肉やバターもそんなにクセはないという。「ただ、私も生のヤクの肉は食べたことがないんですよ」とロサンさん。彼はネパールで生まれた亡命チベット族の2世なのだという。
かつてチベットは一つの国だったが、19世紀にインドから東アジアへ侵略を進めたイギリスに脅威を感じた清(中国)がチベットへ侵攻した。その後、清は滅亡するが1949年に中華人民共和国が成立すると、再びチベットに攻め込み、軍事管制下に置いた。チベット族の抵抗は続いたが、多くの死傷者を出し、法王ダライ・ラマ14世はインドへ亡命。インド北部のダラムサラにチベット亡命政権を樹立して今にいたる。
「私の親たちは1959年にダライ・ラマ法王とともに亡命したのです」とロサンさんは言う。この時、インドやネパール、ブータンに亡命したチベット族は8万人にもおよぶと言われている。
「ネパールで生まれた私は僧侶になり、8歳の時に南インドにあるチベット仏教の寺院に入りました。日本へも最初は僧侶として来たんです。だから、チベットには行ったことがないんですよ」。幼くして母を亡くしたロサンさんが覚えているのは祖母のツァンパ。そして、貧しい中でたまに食べることができたチベット式のモモだという。
話を聞きながら、またモモを食べた。冷めてはいたがうま味がしみじみと伝わってくる。と、そこへ後ろから声がした。
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