第52回 知ってほしいクルドの味

「困っている人がいたら助けるのは当然のこと。私たちはずっと差別を受けて苦しんできたので、人の心の痛みがよくわかるんです」。クルド人は世界に2500万~3000万人いるといわれているが、独立国家を持てずに各国に散らばり、少数民族として迫害を受けてきた。そのため、難民として世界各地に逃れる者も多い。

 トルコで生まれ育ったグレさんが来日したのは約10年前。お兄さんが政府にいわれない疑いをかけられ、迫害を逃れてのことだった。「そうでなくても日常的に差別を受けます。学校にいくのも辛い。そこでビザがなくても入国できる日本にきて難民認定を申請したんです」

 蕨駅周辺にクルド人が定住し始めたのは30年近く前。仲間意識が強いクルド人は、彼らを頼って集まってきたそうで、グレさん家族も同様にこの地にやってきた。蕨駅から数分も歩くと川口市に入る。実際は蕨市より川口市に居住している場合がほとんどで、これは町工場の多い川口に外国人労働者の雇用があったことが関係しているのだろう。現在、この一帯に日本に住むクルド人の約6割が生活しているという。

 しかし、トルコと友好関係にある日本で難民認定がおりるのは難しい。年間5~10人しか認定されていないとグレさんは言う。「認定されないと仕事に就くのが難しく、職種もあまり選べません。健康保険がないから医者にもなかなか行けない。日本での暮らしも決して楽ではありません」

 それでも、生まれ育った地に戻るつもりはないという。「だから私たちはもっと日本を知りたいし、日本人にもクルドの文化を知ってほしい。料理教室を始めたのもそのためです」。この日の料理一つひとつにクルド人としての誇りが込められていたのだ。彼らの故郷を料理の中に見た、そんな一日だった。

小麦粉と水、塩で作った生地をクレープのようにのばし、粉末状にしたピスタチオをのせ、砂糖をたっぷりかけて包むカットメル。グレさんの故郷があるトルコ南東部ガージアンテップの名物デザートだそうだ
小麦粉と水、塩で作った生地をクレープのようにのばし、粉末状にしたピスタチオをのせ、砂糖をたっぷりかけて包むカットメル。グレさんの故郷があるトルコ南東部ガージアンテップの名物デザートだそうだ
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グレさん(左)とお姉さんのヤスミンさん。料理教室の利益でシリア難民の子どもたちにオモチャを贈る予定だ
グレさん(左)とお姉さんのヤスミンさん。料理教室の利益でシリア難民の子どもたちにオモチャを贈る予定だ
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中川明紀(なかがわ あき)

講談社で書籍、隔月誌、週刊誌の編集に携わったのち、2013年よりライターとして活動をスタート。何事も経験がモットーで暇さえあれば国内外を歩いて回る。思い出の味はスリランカで現地の友人と出かけたピクニックのお弁当とおばあちゃんのお雑煮