第67回 フィリピンの“サリサリ”な豚肉料理
豚肉が好まれるのもスペインの影響だといえる。スペインは8世紀にイスラム教徒の支配下に置かれた。その後、15世紀末までキリスト教徒とイスラム教徒の攻防が続いたが、キリスト教徒が勢力を強めると、カトリックによって国家を統合するためにイスラム教徒やユダヤ教徒を迫害。信仰心をはかるため、彼らが口にしない豚肉食を推奨したという。フィリピンは東南アジアでは珍しく、8割以上がカトリックだ。
「ふだん、母がよくつくってくれたのはシニガンやアドボですが、うちのレストランではボピスやシシッグが人気です。どちらも豚の耳やほほ肉、内臓を使った料理。誕生日などちょっと特別な日に食べたり、大人はお酒のおつまみにしたりしますよ」
結婚式には豚の丸焼きが欠かせないらしい。特に豚の頭はごちそうで、クリスマスや誕生日のパーティーには必ずあるそうだ。豚の頭がテーブルに載っている光景はなかなかの迫力だろうと想像するが、アンナさんの店にも注文が多いという。「うちは全国に発送しているんですよ。お店にも関東一円からお客さんがくるんです」。
アンナさんがサリサリストアを始めたのは1996年。最初はフィリピンの商品を販売する小さな店だったが、当時はそのような店が少なくたちまち評判になった。そこで、98年からご主人の通さんと輸入業を始めた。社長でもある通さんが会話に加わってくれた。
「日本でフィリピンの商品を専門に扱う問屋はうちを含めて3社しかないんです。中国や韓国、タイ、ブラジルの食品などは日本人にも受け入れられているから問屋も多いけれど、フィリピンの商品は需要があまりないですからね。フィリピンと聞いて思い浮かべるのはバナナとナタデココ、ハロハロくらいではないでしょうか」
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