第67回 フィリピンの“サリサリ”な豚肉料理
せっかくなのでアンナさんと一緒にお店でランチをとることにした。大きな器で出されたシニガンをお椀によそって飲むと、確かに酸味が強いが、やわらかく煮こまれた豚肉の旨みと野菜の甘みが相まって滋味深い。後味はさっぱりしていて常夏のフィリピンにぴったりな味わいなのもうなずけるなあ……って、アンナさんはシニガンをご飯にかけて食べているではないか。
「フィリピンではご飯におかずを載せ、混ぜて食べるんですよ」。味噌汁というよりお茶漬けか。いや、ご飯に味噌汁かけて食べるのもうまいけど。
アンナさんは豚肉のアドボも同様にして食べていた。アドボとは醤油と酢で肉や野菜を煮込んだ料理のことを指し、やはり日常的によく食べる家庭料理。肉は鶏でも牛でもいいが、豚が多いようだ。「フィリピンの人はみんな豚肉が好き。豚肉のアドボは日本の豚の角煮に似ているわね」とアンナさん。確かに醤油の黒々とした見た目は角煮そのもの。口の中で崩れるほどやわらかい豚肉はニンニクの風味が効いたややしょっぱめの味で……これまた酢の酸味がしっかりきいている。フィリピン料理は酸味が特徴なのだろうか。
「そうですね。酸っぱい、しょっぱい、甘いものが多いかもしれません。お菓子はすごく甘いものが多いですよ。その反面、辛い料理は少ないですね。ほかの東南アジアの国と違ってパクチーなどの香草もあまり使いません。よく使うのはローレル(月桂樹)くらいかしら」
香草を使わないのはちょっと意外だった。これはスペインの影響を強く受けた歴史が背景にあるようだ。フィリピンはマゼラン率いるスペイン船が来航したことをきっかけに、1571年にスペインの植民地となった。それは19世紀末に米西戦争(アメリカ・スペイン戦争)でスペインがアメリカに敗れるまで続いた。
そのため、スペイン由来の料理がよく食べられているのだ。アドボもスペイン語で「マリネ」、つまり肉や魚、野菜を香辛料、酢、ワインなどを合わせた液に漬け込んだ料理という意味を持ち、スペインでは肉をマリネして焼いた料理をアドバードというらしい。酢をよく使うのは暑い土地で保存性を高めるための知恵かもしれない。
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