第80回 キューバの豆料理から見えてきた、社会主義国の食卓事情

「これがその豆料理、フリホーレス・ネグロスです」

 指の先にあるのは黒いポタージュ。小豆大の豆がゴロゴロと入っていてお汁粉に似ている。キューバの人たちはフリホーレス・ネグロスをごはんにかけ、混ぜて食べるそうだが、まずはフリホーレス・ネグロスだけをすくって口へと運んだ。

フリホーレス・ネグロスのプレート。豆と一緒に煮込む野菜は家庭によって異なるらしい。ローストポークやユカ・コン・モホ、キューバスタイルのトマトとアボカドのサラダが添えられていた。豚肉はキューバで最もポピュラーな肉だそうだ
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 とろりとしたポタージュに、ほろりと崩れる豆のまろやかさ。しかし、味付けは甘くはなく塩ベース。エスニックなスパイスの香りがスーッと鼻に抜け、余韻に残るニンニクの風味が食欲を刺激する。しっかりと味わった後でごはんと混ぜてみた。キューバはインディカ米なのでパラッとしたごはんとの相性がいい。カレーライスみたいな感覚でパクパクとかき込みながら、ふとあることを思い出した。

「これ、フェイジョンに似ていますね」

 フェイジョンとはブラジルの豆の煮込み料理。やはりブラジル人が毎日のように食べる国民食で、見た目や食べ方がよく似ている(第25回参照)。

 しかし、アリアムさんは「いやいや、まったく別の料理です」と首を振った。「まず豆の種類が違うし、食材や味付けも違います。トラディショナルなフリホーレス・ネグロスには肉やベーコンは入りませんから」。

 確かに、ネグロがスペイン語で「黒」を意味するとおり、フリホーレス・ネグロスに使われているのは黒豆(主に黒インゲン豆)だ。フェイジョンはカリオカ豆という茶色い豆を使うのが一般的だと言っていた。そして、ベーコンが入っている。ちなみに、フェイジョアーダというフェイジョンの進化版のような料理には黒豆を使うが、これには必ず豚肉やチョリソーがたっぷりと入る。

「フリホーレス・ネグロスは黒豆とみじん切りにしたタマネギ、パプリカ、ニンニクを煮込み、塩コショウとクミン、オレガノ、ローレルで味付けをします。キューバ料理の味付けの基本は塩コショウとこの3つのスパイス。家庭によって他の調味料を足すこともあるけれどクミン、オレガノ、ローレルは欠かせません」