第66回 医者要らず?ケニア・カンバ族の食事情
「カンバ族は食にとても気を遣っているんです。農家が多く、みんな畑を持っているけれど、その日に食べる分しか収穫しません。ムキモをつくる時も畑にある葉物野菜を摘んできて使います。家畜がいるからバターも自分でつくる。旬で新鮮なものが、一番栄養がありますからね」
肉や魚を買うにしてもその日に食べる分だけだし、翌日の予定がよっぽど忙しくない限りは作り置きもしないから、冷蔵庫に入っているのは飲み物くらいだとフローレンスさんはいう。ウソーもムキモもそれなりに時間を要する料理だし、常備菜が大活躍する日本の食卓から見ると考え難いことだが、なぜなのだろうか。
「カンバ族が住んでいる地域は町から離れていて、病院がほとんどないんです。お医者さんに来てもらうまですごく時間がかかるから、病気にならないように体を大事にする。そのために栄養や鮮度にこだわっているんですよ」
だからフローレンスさんは、店でもなるべく新鮮なものを使うように心がけているという。カンバ族の料理は「医食同源」なのだ。
そう思うとますます体に力がみなぎってきた気がする単純な私。そういえば、ムキモも他の部族に広がっているんだよな。確認するとフローレンスさんは頷く。「イリオという名でも呼ばれていて、広く食べられています。ケニアで最も人口が多いキクユ族では、ジャガイモの代わりにプランテイン(調理用バナナ)を使うこともあるようです」
調べてみると、ムキモ(イリオ)はもともとキクユ族の料理だったという説もあるのだが、いずれにせよ、ケニアの地に根付いた料理であることは間違いないようだ。「部族によって言葉や文化が違っても同じ国に住み、いわばお隣さんのようなもの。食べ物をシェアしたりするうちに伝わっていったのでしょうね」とフローレンスさんはいう。
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